わくわく題詠鳩の会兼題解説

◆ 兼題解説 萩・秋の暮 ◆

萩(はぎ)
芭蕉句 一つ家に遊女も寐たり萩と月(鳥のみち)
小萩ちれますほの小貝小盃(薦獅子集)
浪の間や小貝にまじる萩の塵(類柑子)
しら露もこぼさぬ萩のうねり哉(芭蕉庵小文庫)
〔本意・形状〕 山上憶良の秋の七草の筆頭に挙げられるように、萩は古くから日本人に愛され、詩歌に詠まれてきた。本来は灌木であるが、草冠に秋と書いてハギと読ませて親しんでいたのであろう。
〔季題の歴史〕 萩は『万葉集』に最も多く詠まれた花で一四一首とされ、二位が梅である。『古今六帖』に「秋萩の花咲きにけり高砂の尾上の鹿は今や鳴くらむ」(藤原敏行『古今集』巻四秋上)外多数見られ、また、萩と鹿の取り合わせも良く知られている。
〔類題 傍題〕 鹿鳴草(しかなきぐさ)・鹿妻草(しかつまぐさ)・初見草(はつみぐさ)・古枝草(ふるえぐさ)・玉見草(たまみぐさ)・野守草(のもりぐさ)・糸萩・小萩・真萩・白萩・宮城野萩・秋萩・初萩・萩むら・萩原・野萩・こぼれ萩・乱れ萩・萩散る・括り萩・萩の宿・萩の下風・萩の下露。
〔例   句〕 萩咲いて家賃五円の家に住む      正岡子規
萩の風何か急かるゝ何ならむ      水原秋櫻子
低く垂れその上に垂れ萩の花      高野素十
萩流れ手毬の糸を解く如く       上野泰
君たちの恋句ばかりの夜の萩      石田波郷
秋の暮(あきのくれ)
芭蕉句 枯枝に烏のとまりたるや秋の暮(東日記)
しにもせぬ旅寝の果てよ秋の暮(野ざらし紀行)
こちらむけ我もさびしき秋の暮(笈日記)
此道や行人なしに秋の暮(其便)
〔本意・形状〕 清少納言は『枕草子』に「秋は夕暮」と讃えている。しかし季語「秋の暮」には、秋の夕暮れという意味と秋の季節の暮(末)という意味の両方が混在し、古くから両義を内在しながら曖昧に用いられてきた。
〔季題の歴史〕 『新古今集』「三夕」の歌あたりから秋の夕暮れの季感を固定させた(山本健吉『基本季語500選』)。
「さびしさはその色としもなかりけり真木立つ山の秋の夕暮」寂蓮、
「心なき身にもあはれはしられけり鴫立つ沢の秋の夕暮」西行、
「見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮」定家。
「どれも寂しい夕暮れの風景。ここから寂しげにして「もののあはれ」の極みという「秋の暮」の本意が定まった」(長谷川櫂『角川俳句大歳時記』)。
〔類題 傍題〕 秋の夕暮・秋の夕・秋夕(しゅうせき)
〔例   句〕 山門をぎいと鎖すや秋の暮     正岡子規
秋の暮山脈いづこへか帰る     山口誓子
秋の暮大魚の骨を海が引く     西東三鬼
秋の暮業火となりて秬は燃ゆ    石田波郷
足もとはもうまつくらや秋の暮   草間時彦
(根本梨花)


このサイトについてサイトポリシー