わくわく題詠鳩の会


鳩の会会報98(令和2年7月末締切分)
兼題 清水・蓮
【Advice】前回のAは一句だったが、今回は「飯粒の底ひに揺るる門清水」「花に会ふたびに歓声蓮見舟」の二句。進展と喜んでおきましょう。「門清水」という景色に久しぶりに出逢って、新鮮な気分になった。人の暮らしが見えて美しい。「蓮見舟」の句は経験したことがない人にも如実に感じられる心情。ときどき、この二句を口ずさんで、モノの切り出し方を学びましょう。また、「眼前致景」は蕪村が用いた褒め言葉です。
なお、句の評価にABC三つの符合を用いています。その意味するところは以下の通り。
A:省略が利いて、抒情あきらかな句
B:季感が備わるスケッチ
C:焦点定まらぬつぶやき
A 飯粒の底ひに揺るる門清水     海星
・「門清水」がまことに美しく詠まれている。
B 先ず飲みていはれ読み汲む清水かな     鹿鳴
・「飲み」と「汲む」は類義語か、部分集合の関係にある。よってどちらかを捨てるほうが、スッキリとした表現になるのではないか。まずいわれ(いはれ)を読んでから清水を汲んだことだというふうに。
B 奥山に行在所あり清水堰く     千年
・ボクなら「清水堰く奥山にある行在所」かな。なお、行在所跡に今も清水が流れているとする方が抒情深し。
B 老犬に清水掬ひし老夫婦         窓花
・ふたつの「老」が作り物(ニセモノ)くさくさせている。
B 登山道コップ置かるる岩清水     喜美子
・「登山道らしく、岩清水にコップが置かれているよ」と読めるから、感動の焦点も姿も整っている。「清水あればコップも置かれ登山道」と接続助詞「ば」、係助詞「も」を利用すると、少し上等になる。
B そつとゆび山のリズムを草清水     瑛子
・「リズム」かなあ。「鼓動」「ささやき」、あなむずかしや。
C 葉隠れを目にあざやかな苔清水     笙
・「葉隠れ」の位置がわからない。苔清水が鮮やかなのは普通のこと。
C 五十回忌碑に添ふ清水は絶えずして     由紀雄
・「清水」は絶えないものゆえ、「絶えずして」は捨てよう。「草清水五十回忌を修しけり」の如く表現はスッキリさせたい。
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A 花に会ふたびに歓声蓮見舟               ひろし
・眼前致景。「会ふ」は「逢ふ」とする方がより的確か。
B 白蓮のまはり釣り人ここかしこ        憲
・眼前致景。ただし「白蓮を囲む」の方が上等。
B 高く低く黙し拡がる古代ハス           静枝
・焦点を曖昧にする「拡がる」は捨てるべき。たとえば「高くまた低く黙して古代蓮」の如く。
B 雨上がり刹那に消ゆる蓮の玉           エール
・「刹那」かなあ。「いち弾指のあひだに、六十五の刹那生滅す」(道元・正法眼蔵)。
B 広げたる葉に守られて蓮の花           しのぶこ
・「守られて」というあたりまえの主観捨てたし。
B この辺り江戸の丑寅紅蓮         ひぐらし
・「丑寅」は鬼門(北東)の方位。鬼門は万事に忌み嫌う方角。そこに今を盛りと紅蓮が花をあげている。「紅蓮」はグレンだが、ここはベニハチスと読むか。そういえば紅蓮地獄という言葉があった。知識に傾いて江戸蕉門の一時代を思わせるが、抒情の面で物足りなし。
B 白蓮やアオザイの人佇めり               千寿
・「アオザイの人」が登場する理由がわからない。
B 真つ白の風が蓮田を裏返す               梨花
・白風は秋風に同じ。蓮田は季感弱し。秋風の句か、蓮の句か迷う。「裏返す」は誇張が過ぎるか。
B 散蓮華無心に舞へるしらびやうし    由美
・平家物語を思わせる世界。一応「散蓮華」に白拍子を連想したと解したが、句解捕捉しがたい。
B 泥水に染まぬ心を白き蓮         美雪
・「泥中の蓮」という仏語の翻訳とみた。これを踏まえた先を詠めることが望ましい。
B 鳥乗せて風に揺るるや蓮の葉      貴美
・蓮の葉が風に揺れるのは普通のこと。とすれば、「風に」は不要。こういう推敲を省略という。一例だが「鳥乗せてゐて蓮の葉の揺れ強く」とすれば焦点が定まる。
B 古代蓮シャッターチャンス紅淡し     和子
・字余りでも「古代蓮の」と「の」を入れた方がよい。
C 本牧に蓮と並びし塔百年         直子
・横浜の本牧埠頭か。そのシンボルタワーのことか。百年も経っているのか。蓮池もあるのか。以上の疑問を解決するべく試みたが、釈然としなかった。「蓮」か「塔」かに絞って感動の焦点を定めたい。
C 寺門には蓮の一輪慈悲なるかな     右稀
・これは花器の蓮か。「慈悲なるかな」はどう現代語訳すればよいか。
C 蓮池やわたしと犬と空潤む       真美
・蓮池があることだけは伝わる。「わたしと犬」のいる場所が分からない。「空潤む」とは何ぞや。


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