わくわく題詠鳩の会


鳩の会会報106(令和3年11月末締切分)
兼題 梟・ボーナス
【Advice】このたびの「梟」という題のイメージは不吉と知恵という極端な二つに分かれている点がむずかしい。一方とても新しい「ボーナス」という題は卑しくなりがちでむずかしい。ともに「俳諧は俗語を正すもの」(芭蕉)という教えをなかなかカタチにできていない句が多かった。
それでも〈梟を聞こうとする〉作者、〈梟を脱俗とみて羨ましく思う〉作者、〈梟の目を自分の愚と対比させる〉作者、〈梟の知恵に導かれて長い手紙を書く〉作者を得られたことは収穫でした。また、ボーナスは実は年収の一部で、毎月引当金で計上されている企業が多いのですが、余分にもらった感じがして嬉しいものですね。それで親孝行するという句がいくつかあって、両親が健在であった昔を思い出しています。
感染症の流行で不安な一年でしたが、俳句を通してよい時間を過ごすことができました。どうぞよいお年をお迎えください。
句はABC三つの符合で評価しています。その意味するところは以下の通りです。
A:省略が利いて、抒情あきらかな句
B:季感が備わるスケッチ
C:焦点定まらぬつぶやき
A テレビ消すふくろふの声聴くために    蛙星
・知恵の象徴とされる梟に助言を求める思いか。
A 世に遠く生くる梟羨まし        ひろし
・梟を浮世と無縁の鳥とみる和歌伝統を踏まえて知的。
A 梟のわれを見透かす目玉かな   ひぐらし
・ゆたかな知恵の持ち主とされる梟に対峙して、思惟を深めるひととき。
A 梟の鳴く夜や長き手紙書く     貴美
・知恵の象徴である梟の声を聞いていると、手紙に書くべきことが、おのずとわかってくる。
B 梟の羽音の響くアイヌ村         光江
・アイヌと梟の強い縁を形象化。
B ばあちやんのつくる梟すすきの穂    美知子
・ススキでフクロウの人形を作った。しばらくお目にかかっていないが懐かしい。
B 闇にたつ奇岩カムイの梟来る     瑛子
・アイヌにとって梟は神的存在だから、神事の一コマか。としても、それを読者に伝えるのはなかなか難儀なこと。
B 産声に応ふる明けの梟かな    喜美子
・産声と梟に何か特別なつながりがありそうだが難解。
B ふくろふの「ごろすけ奉公」深き闇  ちちろ
・昔は梟の声を「五郎助奉公」と聞きなした。〈聞きなし〉とはウグイスの声を〈ホウ、法華経〉と聞くたぐい。
B 梟の声かと思し比叡山        エール
・叡山ならいかにも梟の聞こえそうな山。それゆえ、「比叡山」とは言わず、梟の声の場所は読者の想像にゆだねた方が効果的。
B 梟のねむたき真昼囲はれて     梨花
・夜行性ゆえ、このようなことはある。しかし座五を接続助詞「て」で結ぶと〈囲はれて眠たい〉と戻りそうで論旨が不安定になる。
B 梟や夫の不服に加勢して       しのぶこ
・梟の声を、夫の不満顔を支持するかのようだと聞いた。これも一種の聞きなしの面白さ。
C 梟の聞いてゐるともゐないとも     千寿
・梟を聞いている主体は誰か、明らかにした方がよい。
C ふくろふや闇の消えゆく水の星     海星
・「闇の消えゆく」は難解。「水の星」は地球のことか。熟さない言葉ゆえ、鑑賞に迷う。
C ふくろふと和音してみる岩湯かな    由紀雄
・「和音してみる」のは誰か(何か)。
C 梟やアテナをたどる老学徒     由美
・「アテナ」はギリシャ神話の女神か。「老学徒」をそこにどう組み込むのかも難解。
************************************************************************************************************
A 初めてのボーナス母に買ふ財布     真美
・こういう実情を詠むときは、このように巧むことない素直がベスト。
B ほくほくとボーナスの酒スマイリー    千年
・ボーナスで飲む酒はついつい微笑んでしまうという句。
B 忘れじの昭和の賞与袋かな    つゆ草
・今は銀行振込で味気ないのですが、昭和は給与袋とは別に賞与と表書きしたものを現金で受け取ったものでした。
B ボーナスに母の礼状洗濯機     鹿鳴
・付属語がないので「洗濯機」は唐突ですが、それは賞与で母に贈ったものと読みました。
B ボーナスを手にしつ量る昭和かな      憲
・これも現金で渡された昭和懐古。語法は「手にして」がよいと思います。
B ボーナスにより良き時を懐かしむ    美智代
・これも昭和懐古か。TVで「昭和か!」と見下すC Mがありますが、感心しませんね。
B 賞与なり翅生ゆるごとコンサート     香粒
・付属語がないのでは「コンサート」は唐突ですが、いただいた賞与を大好きな音楽会で使い果たしたというのでしょう。
B ボーナスは亡夫の白髪と共に増え     和子
・世俗を描いて川柳調ですが、懐旧の情もかいま見えます。
B 八千円まづ神棚に初ボーナス     美雪
・「八千円」は賞与の総額なのでしょう。もったいなくて神棚に供えたという句。適切な例ではないでしょうが、先日他界した喜多條忠作詞のフォークソング「神田川」の時代のアパートは畳一枚千円で借りられました。「八千円」は大金でありました。
B 非正規にボーナス無縁行く道よ     京子
・「非正規」という冷たい言葉は誰が作ったのか。現代の分断を進めたいやな政策です。なお、座五「行く道よ」が遊離していますので、再考したいところです。


このサイトについてサイトポリシー