わくわく題詠鳩の会


鳩の会会報105(令和3年9月末締切分)
兼題 三日月・落花生
【Advice】このごろ思うのですが、私は長いこと国語教師だったから、表現の整わない句のいちいちにコメントして、句作の上達を願ってきましたが、欠点を指摘されて気持ちのよい人はいない。とすれば、コメントする私もハリアイがない。
高浜虚子という人は、よい句をほめるだけで、駄句には言及しないという方針で、『ホトトギス』を隆盛に導いたと聞いたことがある。鳩の会もA評価の句のみを選んで句会報とするほうがよいのではなかろうか。
こんなことをしみじみ考えるようになりました。なにか御意見があれば真摯に耳を傾けますので、会員掲示板にでも御助言をいただければありがたく思います。
いまのところ、句の評価にABC三つの符合を用いています。その意味するところは以下の通りです。
A:省略が利いて、抒情あきらかな句
B:季感が備わるスケッチ
C:焦点定まらぬつぶやき
A 三日月や帰路の娘はどのあたり    美知子
・「三日月」で心細さが表現された。
A 繊月や日に三本の電車待つ      窓花
・「繊月」とはむずかしい言葉を使ったものだが、空にかかる細い月と「三本の電車」は似合う。東京から郷里に戻った実感が伝わる。
A 三日月や実朝殿の塚ひそり   ひぐらし
・「三日月」の弱い光は享年26の実朝に似合う。しかし、考えてみれば、暗殺者で甥の公卿も同じくあわれだと思った。
B 三日月をおいて鈍行谷を出づ    由紀雄
・「三日月」であらねばならぬ理由がほしいが、景色は美しい。
B ズンズンとベースしづかに三日月夜  つゆ草
・「夜」が要らなかったネ。
C 三日月に薄笑みの口思ひ出す     蛙星
・ちょっと怖いなあ。姿は整っていて、連句の付句ならば大きな役割を果たしそう。発句の場合は救いとか希望の持てる方向へ軌道修正したいネ。
C 三日月や赤道祭は終はりけり     鹿鳴
・私を含めて「赤道祭」を知る人はたぶん少ない。船が赤道を通過する際に、それが初めての船員に対して行われる安全祈願などの儀礼(洗礼)で、道化芝居的な要素も備えるという。よって主題は新鮮だし、詩歌に詠む意義も深い。但し、俳句の場合は季題「三日月」のなじみ具合が決め手になる。この句の場合はおぼつかない。
B 立候補して三日月に澄んでゐる     千年
・「立候補」といえば選挙。作者自身が大きな決断をして議員を目指すというのだろう。「三日月に澄む」というのは情緒的で俳諧的な描写ではないが、人柄がにじみ出た表現ではある。
C 藪肉桂そろり衣通る眉の月     瑛子
・動詞「衣通る」はソトホルと読み、〈美しさが衣を通して輝く〉という意。記紀の衣通姫なる伝説上の女性に由来。すなわち、芭蕉が〈俗語を正す〉と説く俳諧には珍しい日本語。〈内面の美しさが衣装を通して表に現れる〉のは「藪肉桂」か「眉の月」か。このあたりも語法的に難解。
C 三日月やピースサインの送別会     真美
・ゴメン、お手上げ。私には映像が結べない。
C 単身赴任の夫には海の三日の月     梨花
・「海の」というからには私的な情況を踏まえているのだろう。それを捨てて、一般化して初めて詩が生まれると思うのだが。
C 三日月やテールランプの消ゆるまで  エール
・「三日月」の出は早く、隠れるのも早い。そのことと「テールランプ」との関わりがわからなかった。
C 仲秋の三日月の頃を思ひ出し    ミチヨ
・「三日月」といえば仲秋(陰暦八月、今は九月)の三日月のこと。つまり仲秋だから、「仲秋の」は要らない。
C 紺碧の真上よ薄く三日月          憲
・説明しすぎましたね。
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A 子も孫も手を出してくる落花生    ひろし
・実景如実にして仕合わせな時間が見える。
A スーパーのチラシひろげて落花生    ちちろ
・これも実景如実。主語が誰かなどは言わずともよし。
A 仏壇の湯気たちのぼる落花生     千寿
・仏に落花生を供えている景。「仏壇に」とすれば数倍よくなる。
A 節くれた父の手偲ぶ落花生     京子
・実情ゆえにあわれ深し。
A 落花生抜く腰少しづつ老いる     和子
・「落花生を掘りこす」腰なのだろう。「少しづつ」に滑稽と悲哀とが入りまじる。
A 蟄居して読書にも倦み落花生     紅舟
・「蟄居」は本来虫が地中に籠もっていること。転じて人が家に籠もって外出しないこと。大袈裟な言葉だが、コロナ渦の現状を滑稽に描いたか。
B 引き抜けば砂にまみれて落花生     海星
・その通りだが、それ以上ではない。
B 落花生小さき手に乗る爺と婆     香粒
・落花生に皺を「爺と婆」に見立てたか。
B 国自慢見せたや畑の落花生    喜美子
・常陸国、下総国などが「落花生」の特産地であることは有名。でも「国自慢」はやや大袈裟かもしれない。
B 召し上がれ生落花生ゆであがる     美雪
・もてなしの心。旨そうだが、それ以上ではない。
B 落花生や煎る土鍋の芳ばしき     貴美
・語調は「落花生煎るや土鍋の芳しく」がよい。でもそれ以上の句ではない。
C 名物や絆新たな落花性         静枝
・ゴメン。私には映像が結べなかった。
C 農業とキャディーやる母落花生     由美
・「落花生」が浮いてしまって、映像が整わない。


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