白山俳句会会報 No.50

白山句会 白山句会報第50号

  □日時 2021年11月15日(月)~12月5日(日)、第8回ネット句会
  □会場 「芭蕉会議」サイト会員フォーラム(専用掲示板)


 新年あけましておめでとうございます。皆様が健やかに新しい年を迎えられたことを、心よりお慶び申し上げます。昨年も新型コロナウイルス感染症予防の観点から、仕事、仲間たちとの交流、会食、旅行、行事、文化や芸術にふれあう機会など、日常生活が制限されてしまいました。皆様も緊張感の中での生活が続き、落ち着かない日々をお過ごしのことと存じます。私はコロナ禍のこの歳月を思うにつけ、人と人のつながり、ふれあいを制限されることが本当に辛いと感じております。しかし芭蕉会議のネット句会では皆様とつながれることができ、この鬱々とした状況での救いの一つとなっております。そしてこの様なご時世にもめげずに、句会は50回目という節目を迎えられました。大変喜ばしい限りです。直接お会いしてこの節目を一緒にお祝いできるのは、もう少し先になるかもしれませんが、その時が来ることを心待ちにしております。末筆ながら、本年が皆様にとりまして、幸多き一年となりますことを心からお祈り申し上げます。
<ふうせん記>

〈 俳 話 少 々 〉

 親しい距離にある友人に〈わたしはイサカイとモメゴトが何より苦手〉ということがある。そのワケは〈仕合わせの実感は人間関係(Relationships)のなかにしか生まれない〉と考えているから。昨今の地球上に起こっていること、起こりつつあることを見ていて、その思いは強まるばかり。

  さびしさに堪へたる人のまたもあれな庵並べむ冬の山里(西行・新古今・冬)

  吉野山やがて出でじと思ふ身を花散りなばと人や待つらむ(西行・新古今・雑)

 前者は〈自分のように淋しさに堪えている人がいたら、庵を並べて一緒に住みたいな〉といい、後者は〈もう吉野山を出まいと思う私を、花が散ってしまったら山を下りてくるだろうと、人は待っているのだろうか〉という。世を背く西行でさえ、人間関係のなかに仕合わせを手探りしている。
 手探りする手段はいくつもあろうが、そのひとつに俳諧(俳句)という文芸がある。尾形仂先生の『座の文学』(S48、角川書店)という著書の前後に、密室のモノローグから脱しようとした現代詩人たちの試行錯誤があって、連衆の精神的共同性が取り沙汰された。思いあがるつもりはまったくないが、平成22年(2010)まで大学の研究会だったものを一般に開放して、再出発した白山句会も同じ流れのなかにあることは否定し得ない。それが今回で50回目になると聞いて、少し襟を正すと共に、幹事会の諸兄姉にあらためて御礼申し上げる。<海紅記>


〈 句 会 報 告 〉

 一部の作品について、作者の意図をそれない範囲で、表現を改めた句が含まれています。なお、海紅選の一部の句に「注」として短い参考意見を添えました。また、師走であることを踏まえて、このたびは制限なく選句をお願いすることを遠慮いたしました。


☆ 谷地海紅選 ☆

31 冬晴やひとり闊歩の御堂筋 エール
67 ポケットの団栗見せる小さき手 エール
98 冬匂ふ特急電車の過ぎしあと エール
9 自販機のにぶき点滅冬の夜 ひぐらし
81 今朝届く母の手紙と冬林檎 ひぐらし
26 片岸に寄り添ひながら冬の鴨 うらら
注・鴨は冬季ゆえ、「鴨の陣」という語を薦めます。
104 冬の田にビービー弾の赤青黄 うらら
28 米寿賀にはにかむ母の小春かな
注・「米寿の賀」と助詞を加えることを薦めます。
56 園児みな良い子となりしクリスマス
43 影富士の藍美しき冬落暉 瑛子
85 どの人もマスクに帽子師走くる 瑛子
68 ケーキ屋の残りは五つ冬灯 つゆ草
95 褒められて緋色マフラー風を切る つゆ草
33 鯛焼きの天然ものの活きの良さ ミチヨ
注・下五「活き活きと」と修正することを薦めます。
113 息白き指先重ねマフの中 ミチヨ
55 栗おこは女三代寡黙にす 和子
78 スカイツリー初冬三百六十度 和子
5 年重ね心細しや木の葉髪 春代
11 メールより長き通話や冬籠 真美
13 父母若し皆姿勢よく大火鉢 香粒
17 公園に小さな足音小六月 喜美子
18 大根の丸き真白き肩を引く 梨花
注・語法的には「丸く」と連用中止にするのがよい。
19 初しぐれ旅の誘ふ予告とも 宏美
注・語法的には「旅に」の方が安定する。
24 疫病の戯画のごとくの冬三とせ 月子
29 冬銀河折たく柴の記読み進め ひろし
注・下五「進む」と終止形に落ち着かせることを薦めます。
30 飼犬の名をパスワードに冬籠り 貴美
注・「名がパスワード」と中七で小休止させることを薦めます。
37 小春日ややはらかに鳴る駅ピアノ 馨子
39 心に鞭笑顔保てよ十二月 美雪
注・省略しなければ「心に鞭打つて笑顔を保てよ」となるのだろうね。とすれば「心に鞭打つて笑顔や」と縮める方が伝わる。
41 尼寺の障子真白しヤブカウジ
注・「障子」も藪柑子も冬季。でもこの季重ねはあまり気にならない。
42 蓮根掘る祖母の背中の逞しく ふうせん
46 ハンチング似合ひし人の懐手 蛙星
47 冬風や木々の断捨離始まりぬ ふみ子
48 小六月テニスコートの音軽やか 由美
注・「軽く」「軽し」などの方が完成度は高い。
49 冬日和俄かに並ぶ植木鉢 静枝
53 除草せしヘクソカズラの実は黄金 千年
59 おはやうの口もとゆるむ息白し 光江
73 公園の芝に寝転びいわし雲 玄了
注・「寝転ぶ」と終止形にする方が韻文らしさが増す。
87 吉右衛門逝く衣川雪便り
注・「武蔵坊弁慶」の類の前書が必要である。
91 逆上がり大空回す冬日和 しのぶこ
107 猿の名はすみれとりようた冬日浴び 京子
注・下五を「冬日浴ぶ」「冬日濃し」などと終止形にして安定させることを薦めます。

☆ 互選結果 ☆

9 小春日ややはらかに鳴る駅ピアノ 馨子
7 話したきことの半分冬月夜 うらら
6 池辺なる波郷碑落葉降り止まず
6 寒釣の隣り合ひても無言なり 蛙星
6 自販機のにぶき点滅冬の夜 ひぐらし
5 巫女二人語らふ社の小春かな ちちろ
5 漆黒の筆の払ひや冴え返る つゆ草
5 逆上がり大空回す冬日和 しのぶこ
5 褒められて緋色マフラー風を切る つゆ草
4 冬の蝶黙して語らざりしこと 稲子麿
4 熱燗に話し好きなる元教師 海紅
4 ポケットの団栗見せる小さき手 エール
4 ケーキ屋の残りは五つ冬灯 つゆ草
4 吉右衛門逝く衣川雪便り
4 猿の名はすみれとりようた冬日浴び 京子
4 片手だけ手袋はづし指切りす ちちろ
4 園児みな良い子となりしクリスマス
3 城跡に一陣の風冬紅葉 京子
3 重ね着の中のせがれの古着かな 海紅
3 手を引かれのぼる坂道冬うらら 千寿
3 現し身の翳によりそふ冬日かな
3 冬匂ふ特急電車の過ぎしあと エール
3 独り身のころの蒲団を捨てにけり 海紅
3 米寿賀にはにかむ母の小春かな
2 柚子撮つて採られて籠に収まりぬ 千年
2 メールより長き通話や冬籠 真美
2 父母若し皆姿勢よく大火鉢 香粒
2 飼犬の名をパスワードに冬籠り 貴美
2 影富士の藍美しき冬落暉 瑛子
2 喜寿過ぎて竹馬のきずも武勇伝 美知子
2 表裏見せて流るる木の葉かな 千寿
2 ハンチング似合ひし人の懐手 蛙星
2 冬日和俄かに並ぶ植木鉢 静枝
2 木枯らしの風鈴鳴らす破屋かな 稲子麿
2 栗おこは女三代寡黙にす 和子
2 スカイツリー初冬三百六十度 和子
2 しゆんしゆんと湯気立つ音にまどろめば ふうせん
2 雪催ひ雀親子の行き処 喜美子
2 新雪に地図だと尿す子ら嬉々と 由紀雄
1 割れガラス変へて山茶花額となる 和子
1 着ぶくれて半月仰ぐ午前零時 美雪
1 桟橋に出航の銅鑼ゆりかもめ
1 川暮れてなほ透き通る櫨紅葉 瑛子
1 花八つ手老舗の饅頭いつも列 静枝
1 木もれ日の降る妃の墓に返り花 由美
1 公園に小さな足音小六月 喜美子
1 大根の丸き真白き肩を引く 梨花
1 初しぐれ旅の誘ふ予告とも 宏美
1 疫病の戯画のごとくの冬三とせ 月子
1 片岸に寄り添ひながら冬の鴨 うらら
1 冬うららこかげにそつとべにさうび
1 冬銀河折たく柴の記読み進め ひろし
1 冬晴やひとり闊歩の御堂筋 エール
1 鯛焼きの天然ものの活きの良さ ミチヨ
1 菊坂や見返り影を一葉忌
1 防波堤コート手に持ち歩く人 玄了
1 蟷螂や枯れて落ち着く箒の柄 しのぶこ
1 冬風や木々の断捨離始まりぬ ふみ子
1 手作りの柚子味噌ありて荷の届く 香粒
1 除草せしヘクソカズラの実は黄金 千年
1 宛名のみ楷書の文字よ十二月 宏美
1 従妹てふ友の逝きし日冬椿 貴美
1 白鯨のごとき浮雲小春空 ひろし
1 神無月万葉に在り畏みぬ
1 寒雀喰はれもせずに遊びけり 月子
1 今朝届く母の手紙と冬林檎 ひぐらし
1 小春日よ続けと願ひ見舞ひけり 馨子
1 冬日和カラス一声鳴きにけり ふみ子
1 紅葉散る急ぐ家あり水のあり 宏美
1 まだ暗き沼に散らばる鴨の群れ ひろし
1 父母の敷きし蒲団の重さかな 蛙星
1 カイロ貼りのんびり歩く自分の日 春代

☆ 参加者 ☆ <順不同・敬称略>
谷地海紅、青柳光江、礒部和子、市川千年、植田ひぐらし、宇田川うらら、梅田ひろし、大石しのぶこ、大江月子、荻原貴美、尾崎喜美子、尾見谷静枝、梶原真美、加藤 悠、佐藤馨子、椎名美知子、篠崎稲子麿、柴田 憲、鈴木香粒、高橋千寿、高橋美智代、高橋由紀雄、谷 美雪、丹野宏美、千葉ちちろ、月岡 糀、内藤玄了、中里蛙星、西野由美、根本梨花、平塚ふみ子、備後春代、古崎 笙、三木つゆ草、村上エール、森田京子、谷地元瑛子、荒井ふうせん(以上38名)

投句参加者数:38名
選句参加者数:谷地海紅 +34名

<以上取りまとめ、ふうせん記>
< 了 >



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