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参考資料室

『季語の研究』―「雨」によって日本人の四季観をみる―   中 里 郁 恵

第四章 「雨」に関わる季語

第一節 季語
 
主に「雨」に関わることばの入った「季語」や、あめかんむりの付く「季語」を以下の文献を参考に調べていく。
『基本季語五〇〇選』
『図説 大歳時記 春』
『図説 大歳時記 夏』
『図説 大歳時記 秋』
『図説 大歳時記 冬』

【春】
・春霖(春の長雨)
〔解説〕冬の乾燥期から、初夏の青天期に至る中間の春三月から四月にかけて天気がぐずつき、雨量の多くなることがある。春の雨期。
・春雷(春の雷・初雷・虫出し・虫出しの雷)
〔解説〕春に鳴る雷。ひどくなったときには、雹を降らせることもある。
       (例句)初雷やえぞの果まで御代の鐘    一茶
           下町は雨になりけり春の雷     正岡子規          
・春泥(春の泥)
〔解説〕春のぬかるみで、凍解、雪解、春雨などのため泥濘もはげしく、季的情趣も。豊かな表現。
       (例句)鴨の嘴よりたらたらと春の泥    高浜虚子
・陽炎(陽炎燃ゆる・糸遊・遊子・野暮・陽焔・かぎろい)
〔解説〕雨降りのあとなど、水蒸気が地面から蒸発して上昇していくとき、空気がかなりかきみだされ、それを通して遠くの物体が浮動して見える現象。
       (例句)かげろふの我肩にたつ紙子かな   芭蕉
           陽炎や名もしらぬ虫の白き飛ぶ   蕪村
           陽炎や馬をほしたる小松原     一茶
           陽炎や砂より萌ゆる月見草     水原秋桜子
・春疾風(春荒・春嵐・春突風・春烈風・春はやち・春?※「風+炎」)
〔解説〕春の強風である。暖かい南よりの風で、時雨を伴い暴風雨にもなる。
・花曇(養花天)
〔解説〕曇天を生じ、どんよりとして暖かい。薄い霧のようなものを生じ、またこまかく暖かい滴のような雨が降る。
       (例句)花ぐもり朧につゞくゆふべかな   蕪村
           咲満る花に淋しき曇り哉      正岡子規
           研ぎ上げし剃刀にほふ花曇     日野草城         

・霞(春霞・薄霞・遠霞・八重霞・横霞・叢霞・有明霞・朝霞・昼霞・夕霞・晩霞・霞の海・霞の浪・霞の沖・霞の帯・霞の衣・霞の袖・霞の袂・霞の網・霞隠れ・霞の空・霞の谷・霞の奥・霞の麓・霞の底・霞敷く・霞渡る・霞棚引く・霞立つ・草霞む)
       (例句)春なれや名もなき山の薄霞     芭蕉    
           霞む日や筑波小さき窓の中     正岡子規
・霾(ばい・霾曇・霾天・黄沙・黄砂・黄塵萬丈・蒙古風・つちかぜ・つちぐもり・よなぼこり・胡沙來る・胡沙荒るる)
・春の雪(春雪・春吹雪・牡丹雪)
       (例句)春の雪風吹きあれて日の暮るる   樗良
           春の雪痴人の黒き頭髪に      山口誓子
・淡雪(あわ雪・沫雪・綿雪・牡丹雪・かたびら雪・泡雪)
       (例句)淡雪や丈の土ほる道のはた     一茶
           淡雪やかりそめにさす女傘     日野草城
・雪解(雪消・雪解くる・雪解道・雪消水・雪解川・雪解畠・雪解風・雪解雫・雪滴)
       (例句)雪解や妹が炬燵に足袋かたし    蕪村
           雪解くるささやき滋し小笹原    高浜虚子
・残雪(去年の雪・残る雪・雪残る・陰雪)
       (例句)鳥騒ぐ市中遠く残る雪      几董
           美しく残れる雪を踏むまじく    高浜虚子
・雪崩(底雪崩・地こすり・風雪崩・雪雪崩・雪くずれ・なだれ雪)
・雪の果(涅槃雪・名残の雪・雪の名残・雪の終・雪の別れ・忘れ雪・終雪・雪涅槃)
・忘れ霜(晩霜・終霜・名残の霜・別れ霜・霜の別れ・霜の果)
       (例句)花過てよし野出る日や別れ霜    几董
           別れ霜庭はく男老にけり      正岡子規

【夏】
・夏の空(夏空・夏の天・夏天)
〔解説〕梅雨明けのまぶしい夏の空。
・夏の雲(夏雲)
〔解説〕夏の空の雲。積雲と積乱雲の二種をあげるのが適当である。
・五月雲(梅雨雲・梅雨の雲)
〔解説〕陰暦五月の五月雨の降るころのうっとうしい雲をいう。
・雲の峰(入道雲・積乱雲・雷雲・鐵鈷雲・夕立雲・峰雲・坂東太郎・比古太郎・信濃太郎・石見太郎・安達太郎)
〔解説〕気象学でいう積乱雲のこと。
       (例句)雲の峰や山見ぬ国の拾ひ物     西鶴
・卯の花腐し(卯の花降し・卯の花くたし)
〔解説〕陰暦四月は別名卯の花月という。そのころに降る雨を卯の花腐しと呼んだ。
       (例句)塀合に卯の花腐し流しけり     一茶
           古傘に受くる卯の花腐しかな    日野草城
・夏ぐれ
〔解説〕沖縄地方の雨期で、五月ごろに始まる。
・薬降る(神水)
〔解説〕陰暦五月五日を「薬日」といい、この日午の時に雨の降ることをいう。
       (例句)薬降る空よとてもに金ならば    一茶
・夕立(ゆだち・よだち・白雨・しらさめ・驟雨・夕立雲・夕立晴・夕立風・初夕立・村雨・夕立後・夕立つ)
       (例句)夕立や草葉を掴むむら雀      蕪村
           ゆふ立やよみがへりたる斃れ馬   几董
           夕立が始る海のはづれかな     一茶
           夕立や砂に突き立つ松青葉     正岡子規
・虹(朝虹・夕虹・虹立つ・虹の帯・虹の梁・虹の橋・二重虹・白虹・虹の輪)
〔解説〕暑さを吹き払って降り過ぎた夕立のあとにくっきりと浮かぶ虹は、太陽光線が空中の水滴に当たって色が分かれて見えるもの。
       (例句)虹たるるもとや樗の木の間より   召波
           わぎもこや虹を見る眉あきらかに  日野草城
・雹(氷雨・冰雨)
〔解説〕激しい雷雨の時に降る氷のかたまり。「氷雨」は霰や霙にも使われている。
・雷(神鳴・いかづち・はたたがみ・鳴神・遠雷・とほがみなり・迅雷・疾雷・落雷・雷火・雷鳴・雷聲・雷轟・雷響・雷神・雷公・雷霆・雷震・雷車・雷?・輕雷・日雷・熱雷・界雷・熱界雷・雷電・雷雨・らい・激雷・雷鼓・はたたく)
〔解説〕積乱雲によって起こされる空中の放電現象。雷を伴った雨を雷雨という。
       (例句)月さして鳴き澄む蝉や雷のあと   水原秋桜子
・五月晴
〔解説〕梅雨晴と同じだが、主に陰暦五月の梅雨のあいまに晴天がおとずれること。
       (例句)虻出でよしやうじの破れの五月晴れ 一茶
           うれしさや小草彩もつ五月晴    正岡子規
・朝焼(朝焼雲)
〔解説〕朝焼けも夕焼けも、その色彩は単純なものでなく、その日の大気の状態によって著しく差異がある。朝焼けの場合は天気が頂上にあって、下り坂になることが多い。

・夏の露(露涼し)
・夏の霧(夏霧)
・海霧(じり・かいむ)
・夏霞(夏の霞)
・雲海
・卯月曇(卯の花曇)
・朝曇
       (例句)朝ぐもり窓より見れば梨の花    高村光太郎
           葭切のをちの鋭声や朝ぐもり    水原秋桜子

【秋】
・御山洗(富士の山洗)
〔解説〕富士山麓地方で陰暦七月二十六日に降る雨のことを御山洗といっている。
・秋の雷
〔解説〕雷は夏に多いため、単に雷というと夏になる。しかし、雷雨が秋にも激しく降り続く地方がある。
       (例句)木鋏のひびきて秋の雷       山口誓子
・秋の虹(秋虹)
〔解説〕秋の空の虹は色も淡く儚く消えていく。
・霧(朝霧・夕霧・夜霧・山霧・海霧・野霧・狹霧・霧襖・霧の籬・霧雨・濃霧・霧の香・霧の海・霧立人・霧の下道・霧の雫・霧雫・胸の霧・心の霧・薄霧・霧の谷・霧の帳・霧の籬・霧時雨)
〔解説〕冷えた空気のたまりやすい盆地などは、特によく霧がかかる。
       (例句)湯の名残幾度見るや霧のもと    芭蕉
           朝々や茶がむまくなる霧おりる   一茶
           霧黄なる市に動くや影法師     夏目漱石
・野分(野わけ・野分雲・野分だつ・野分晴)
〔解説〕秋の暴風で、草木を吹き分けるという意味で名付けたという。主として台風をさす。
       (例句)芭蕉野分して盥に雨を聞く夜かな  芭蕉
           鳥羽殿へ五六騎急ぐ野分かな    蕪村
           たふれける竹に日の照る野分かな  樗良 
           寝筵や野分に吹かす足の裏     一茶
           鶏頭ノマダイトケナキ野分カナ   正岡子規
           野分して蟷螂を窓に吹き入るる   夏目漱石

・いわし雲(鱗雲)
・富士の初雪
・秋雪(秋の雪・秋の初雪)
・秋の霞(秋霞)
・露(白露・朝露・夕露・夜露・初露・上露・下露・露の玉・露けし・露葎・露の秋・露の宿・露の袖・袖の露・波の露・芋の露・露の世・露の身)
       (例句)硯かと拾ふやくぼき石の露     芭蕉
           松を出てまばゆくぞある露の原   夏目漱石
・枯草の露(枯野の露)
・露寒(露寒し・露霜寒し・露冴ゆる)
・露霜(水霜)
       (例句)露じもや丘の雀もちとよぶ     一茶
・秋の霜(秋霜)
       (例句)秋の霜うちひらめななる石のうへ  蕪村

【冬】
・霰(初霰・夕霰・玉霰・雪あられ・氷あられ・急霰・氷雨)
〔解説〕あられには氷あられと雪あられの二種があり、普通あられといえば雪あられのことである。雪片または、雨滴といっしょににわかに降ってくる。
       (例句)琵琶行の夜や三味線の音霰     芭蕉
           海へ降る霰や雲に波の音      其角
           霰ちれくくり枕を負ふ子ども    一茶
           呉竹の奥に音ある霰かな      正岡子規
           霰打つ模型の鮨をめがけては    秋元不死男
・霙(みぞるる・雪雑り・雪交ぜ)
〔解説〕雨と雪が同時に入り混じって降ること。冬の初めや早春に降ることが多い。
       (例句)松杉にすくひ上げたるみぞれかな  去来 
           古池に草履沈みてみぞれかな    蕪村
           ゆで汁のけぶる垣根やみぞれふる  一茶
           棕梠の葉のばさりばさりとみぞれけり 正岡子規
・初雪
〔解説〕秋から冬にかけて、初めて降る雪である。初雪の降り方はいろいろあるが、雨に混じって降り出したり、雪あられで降ることもある。
       (例句)初雪やかけかかりたる橋の上    芭蕉 
           初雪や上京は人のよかりけり    蕪村
           はつ雪やとある木陰の神楽笛    一茶
           初雪の忽ち松に積りけり      日野草城
・風花
〔解説〕雲のない青空から雪がちらつくこと。このような現象は雪だけではなく雨のこともある。
       (例句)日ねもすの風花淋しからざるや   高浜虚子
           風花に驚破一角の日の光      山口誓子

・霧氷(樹霜・粗氷)
・初霜
       (例句)初霜や菊冷え初むる腰の綿     芭蕉
           初霜や茎の歯ぎれも去年まで    一茶
・霜(霜解・霜晴・大霜・深霜・強霜・朝霜・夜霜・霜夜・霜の聲・霜凪・霜雫・霜の花・三の花・青女・はだれ霜・霜だたみ・霜の声・霜日和・濃霜)
       (例句)たんぽぽのわすれ花あり路の霜   蕪村
           霜の菊傷つきし如膝重し      水原秋桜子
・露凝る(露こほる・凍露)
・雪催(雪げ・雪曇・雪雲)
・雪(六花・不香花・雪の花・雪華・銀花・雪空・雪明り・雪の聲・雪煙・大雪・深雪・小雪・粉雪・細雪・子米雪・綿雪・牡丹雪・白雪・かたびら雪・もち雪・衾雪・明の雪・朝の雪・今朝の雪・晝の雪・暮の雪・宵の雪・夜の雪・雪の宿・新雪・凍雪・根雪・積雪・風雪・雪片・しまり雪・ざらめ雪・湿雪・べと雪・雪紐・筒雪・冠雪・雪冠・雪庇・水雪・しずり雪・しずり・堅雪・雪気・雪催い・雪模様・雪雲・雪曇・雪暗・雪風・雪の声・雪月夜・雪景色・暮雪・雪国)
       (例句)時雨をばもどきて雪や松の色    芭蕉
           雪積んですがたきまりぬ松柏    日野草城
・雪晴(深雪晴)
・吹雪(地吹雪・雪煙・雪浪)
       (例句)宿かせと刀投げ出す吹雪かな    蕪村
           海わたり来たり火口のふぶきに逢ふ 山口誓子
・しまく(雪しまき・雪じまき)
・沫雪
・冬の雷(寒雷)
・雪起し(雪の雷)
・冬霞(寒霞・冬靄)
・冬の霧(冬霧・スモッグ・煙霧)
・冬の虹