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参考資料室
インドネシアでの日本語パートナーズ経験
荒井 奈津美

まえがき

 この度、インドネシアの高校に日本語パートナーズとして平成28年8月から平成29年3月まで赴任してきましたので、その活動を以下にまとめてみました。今度、私と同様日本語パートナーズを目指しておられる方、あるいはインドネシアに興味をお持ちの方の参考になれば幸いです。

1.発表内容
(1)インドネシアについて

◆インドネシアの概要
・赤道をまたぎ東西の多くの島々から成る。主だった島だけで数十島。小島を入れると1万数千島あり、国土面積は日本の役5倍と大変広い。
・インドネシアの人口は世界第4位で、2億3千万人と言われている。内2400万人がジャカルタやジャカルタ近郊で生活している。
・発表者が住んでいたジャワ島は、東西に細長い島で首都ジャカルタがある。日本の南北に長い形状と酷似している。
・ジャワ島は4つの州(西ジャワ州、東ジャワ州、中部ジャワ州、バンテン州)と2つの特別区(ジャカルタ首都特別、ジョグジャカルタ特別)からなり、面積は日本の約3分の1。
◆インドネシアの季節
・学術上の季節は乾季と雨季に分かれる。現地の人に聞いたところ雨季や乾季とは呼ばず、旬の果物や食べ物、行事名を頭にして季節を呼んでいる人も多い。(マンゴーの季節、ドリアンの季節、魚の季節、結婚の季節など
◆インドネシアの天候
・平均26℃〜30℃、雨季は湿度が上がるため暑く感じる
・日本同様地域によって天気は変わる。ボゴールはコタウジャン(雨の町)と言われ、乾季でも毎日雨が降っていた
・道路の水はけが悪い、排水溝がすぐにゴミが詰まってしまう。主に都市部、特にジャカルタはバンジール(洪水)になりやすい。洪水は水嵩水が足首程度の時もあるが、肩までの時もある。

⇒ポイ捨ての文化があり、未だに続いている。ゴミ箱の設置は至る所で目にするが、ゴミ箱に捨てる風習が広まるには更なる時間が必要なようである。ジャカルタでは日本人ボランティアが中心となりインドネシア人と共に発足した「ジャカルタお掃除隊」があり、週に1回、活動している。

◆インドネシアの宗教
・インドネシア人は必ず宗教を信仰しなければならない。
・教徒数の割合はイスラム 87.18%、プロテスタント 6.96%、カトリック 2.91%、ヒンドゥー 1.69%、仏教 0.72%、儒教 0.05%、その他 0.13%。
・信教の自由を保障し、「イスラム」「プロテスタント」「カトリック」「ヒンドゥー」「仏教」「儒教」の6宗教を国家公認の宗教と定めている。
・家族でも異なる宗教を選択することもが可能。極端な例、お父さんがイスラム、お母さんがカトリック、子供が仏教など。ただ夫婦が違う宗教を選択することは滅多にない。 
◆インドネシアの時間感覚
・イスラム教は1日に5回の祈りの儀式がある。このため社会は祈りに合わせた生活習慣となっている。
・ゴム時間と言われるほど、時計の時間にはルーズ。家族内でも時計の時間に誤差があるのは当たり前。例えば、お父さんは10:00、お母さんは10:10、息子は9:50など。
・彼らは宗教時間には左右されるが、時計の時間にのみ縛られることはない。その日の天候、道路事情など様々な事情が作用して時間は変わるもの。つまり、人が時間のあり方を変化させる。
・歩行のスピードは日本人に比しかなりスローペースである。
◆インドネシアの生活
@ 交通事情 
・首都ジャカルタでは数ヶ所信号があるが、発表者の住んでいたボゴールでは2か所ほど。信号の少なさと交通量の多さでかなり渋滞する。30分で着く所に2時間掛かることも。
・また交通規則はあるが守る人は少ない。オートバイは自由に歩道を走り、逆走もする。警察に捕まっても賄賂で何とかなる場合が多い。運転は強引で荒い人が多い。そうでないと、インドネシアの道路は走れない。
・車線はあってないようなもの、反対車線に車がなければ、追越し車線に変化する。また渋滞時は1車線が3車線や4車線になり、対向車も入り乱れまさにカオスである。歩行者は命がけで道路を渡らなければならない。
・近年最低賃金が倍近く上がり自家用車やオートバイの購入率増加と共に交通量も増え、渋滞に更なる拍車がかかっている。自家用車はミニバンの人気が非常に高い。
・ミニバンを買えない人、奥さん、子供用のセカンドカーが欲しい層に人気なのが超低価格車で、車内は狭いが5人は乗れ、小回りが利き、価格は日本円で100万円しない。ダイハツより発売されているこのタイプの車が、日本円に換算し約65万円で買える。日本の軽自動車より安いのではないだろうか。
A 乗り物
・インドネシアは歩道が整備されおらず歩行は危険が伴う。また暑いので、歩いて移動する人は少ない。そのため様々なタイプの乗り物がある。

・自家用車:ミニバンが圧倒的に多く、日本車が6割〜7割を占める。
・TAXI:国に認められて経営している会社のTAXIやハイヤー。基本メーター式で、初乗りは60円程度。メーターは時間制。乗車方法は日本と同じでTAXI会社に電話するか、空車に手を挙げ止める。または携帯電話やタブレットにアプリをダウンロードし、そのアプリで現在地に来てもらう。また白TAXIもあり一般人が自車を使い営業している。見た目ではTAXIと区別がつかない。車を呼ぶにはアプリを使って乗車&降車場所を指定しドライバーを呼ぶ。金額は最初に決まる(観光地などは金額に幅)。TAXより安いことが多い。
・オートバイ:家族に1台ある家庭が多い。人数制限はない(5人乗ることも)。遠方に住む高校生はオートバイで通ってくるが事故が多い。
・ゴジェック:TAXIのオートバイバージョンで、TAXIよりかなり安いが交渉制。渋滞するインドネシアでは早く目的地に着け便利だが、事故の確率は高い。
・バス:大型バスは、貸切用や遠方用高速バスに使われる。エアコン装備が多い。中型バスは中距離(100キロ〜150キロくらい)をつなぐ。エアコンはなく、喫煙可、運転手と車掌がいる。区間内なら乗降自由。乗車直後に車掌に降車場所を聞かれ金額を徴収される。
・トランスジャカルタ:ジャカルタの市内を走り、エアコン装備、大型バス1〜2台を連結。電車同様、厳しいルールがあり、車内は座り込み禁止、喫煙禁止、ドリアン持ち込み禁止、痴漢禁止、飲食禁止などとなっている。専用レーンがあり他の車輛は走行できない。停車駅と時刻表がある。乗車券はプリペイドカードで金額は一律3500ルピア(35円程度)。
・アンコット:ワゴン車を改造した小型乗り合いバス。エアコンはなく、利用者は学生や低所得者が多い。都会は規制条令で全体的に減少傾向にある。
※トランスジャカルタ以外の交通機関は、どのタイプも時間は不定で乗降場所もフリー。満席かある程度の人数にならないと出発しない。また停車していると演奏者や歌を歌う人、食べ物やお土産を売る人などが乗ってくる。
・鉄道:ジャワ島全土に鉄道が走っている。乗車券はプリペイドカード、お金をチャージし、出るときに支払う。行き先によって金額は変動。地下鉄はまだないが、現在、日本の企業が入って工事が進んでいる。
・船:車や鉄道、飛行機で移動できない場所へは船の移動になる。フェリータイプの大型船も多い。インドネシア人は車で旅行することが多く、島をまたぐ旅行などは大型フェリーを使い車で移動する。船は窓口で支払いするが、値段はピンからキリまで、安いと移動時間がかかる。出発時刻はあるが、人が少ないと出発しない。
・飛行機:主たる都市に飛行場がある。ジャワ島に7か所。ガルーダインドネシアが日本でいうJALやANAに当たる。他にLCCが現在9社ある。LCCでも他の移動手段に比べるとかなり高額である。
・その他の乗り物:どの乗り物も金額はすべて交渉制、地元の人の足として活躍している
[ベチャ]  人力車の後ろから押すバージョンで、自転車やバイクを使う。
[馬車]   馬1頭に引かせる。幌つきの馬車。最近は観光客が利用することが多い。
[バジャイ] 三輪の車、スピードは遅いが、小回りが利き、TAXIより安い。

(2)日本語パートナーズ活動について
◆インドネシアの高校
・大きくSMA(普通科)とSMK(職業専門高等学校)の2種類に分かれる。
・Nがつくと国立高校で、N1、N2など更にNの後ろに数字がつく、数字が若いほど賢い学校であると言われている。N1などがつかない高校は、私立である。例えば SMA(私立高校の普通科)、SMAN1(国立第一高校の普通科)。
・国立は試験があり、学力の高い順にN1、N2、N3…へと行く。そのため同学力の子たちが集まり、学校の学力は安定している。私立は建前上、試験があるが、賄賂などで入学が決まることが多く、学力の差が激しい。
・インドネシアの学校教育は、日本と同様、小・中・高・大がそれぞれ6・3・3・4年制であり、中学校までの9年間を義務教育としている
・小学校から高校までは各年の進級試験と最終年の卒業試験があり、これに合格しないと進級または卒業できず留年となる。上位学校教育の入学試験は下位学校の卒業試験合格者のみが受験できる。このため、進級試験・卒業試験に合格できずに中退する学生はかなりの数に上る。
ただし、学校としても中退者は減らしたいため、テスト中に答えを教えたり、賄賂で点数を変えて、合格させたりする。このようにインドネシアの学校教育では学業成績や試験結果が必ずしも公正に決められておらず、子供の教育への意欲や学力にも大きく影響を与えている。
・進路が決まらない状態で卒業する。卒業後に自力で進路を決める。
・授業中のミニテストや課題は携帯電話で回答を探したり、終わった子の答えを写して提出したりする子がいるのが普通である。
◆日本語パートナーズとは
・インドネシアの場合、現地高校の日本語教師とペアを組み、高校の授業に参加し、発音や板書、テスト採点などアシストする。また文化紹介で授業を任されることもあり、インドネシアで高校の教育実習体験ができる。ALTに近い活動がベースである。
・文化紹介は体験型を主に行う。たこ焼き作り、浴衣着付け、書道、盆踊り、アニメ鑑賞など、食べ物や最新の文化が人気。
・高校にある日本語のクラブ活動を手伝う。授業ではやらない文化紹介をすることで差別化を図った。日本語クラブがない学校もある。最近は、韓国クラブの方が人気のようだ。
・東アジアで、日本文化の紹介を通じて、日本に興味を持ってもらい、日本のファンを増やす。逆に派遣国を知り、派遣国ファンになる。
・一方的な文化の押し付けではなく現地の文化を積極的に知り、インドネシアと日本、双方の懸け橋となる。
・現地の人々と同じ生活をすることで、旅行では知ることのできないインドネシアを生活レベルで知る。帰国後に日本でそういったインドネシアを紹介する。
・寮のスタッフや近隣の商店街の現地住民ともインドネシア語や日本語で交流。TAXIの運転手は日本に農業研修などで来ていたことがある人なども多く、日本語の挨拶をしてくれる人もいる。また学校で、日本語の先生以外の先生にも日本語を教える機会を得た。
・活動内容を、SNSなどで報告することで、広報活動を担う。
◆インドネシアでの日本人気
・日本語に興味があり、日本語能力試験を受ける。日本語能力試験はN5からN1のレベルに分かれており、N5が最低ランクである。現地の日本語の先生はN5〜N3が多い。
・漫画やアニメが好きな人は多い、特にアニメは人気が高い。
・アイドル(特にジャニーズ、AKB)や俳優・女優。映画やドラマはインドネシア語の翻訳付きで、上映とほぼ同時にネットに出回る(但し日本のものだけではない)。秋元康氏がJKT48をプロデュースし、ジャカルタに専用の劇場もある。
・アニメなどの影響でコスプレが大人気。自分たちで衣装や小物やかつらを作り、化粧をし、主に写真撮影を楽しむ(浴衣や着物もコスプレの一種と考えられている)。

(了)