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論文を読む会のまとめ

・発表テーマ  正岡子規の連句注解
・発表者    根本文子
・日時     平成28年7月9日(土)、14時30分〜17時
・場所     東洋大学白山校舎6号館5F 谷地研究室
・資料     @子規連句一覧・・・(資料1)
         A正岡子規の連句注解<平成28年度谷地ゼミ資料>・・・(資料2)
・出席者    谷地快一、堀口希望、菅原通斎、谷地元瑛子、根本文子、三木つゆ草、中村美智子、
          眞杉窓花、荒井奈津美、月岡糀、大石しのぶこ、松本美智子(非会員)、
          田部知季(早稲田大院生、非会員)、伊藤無迅 <順不同、14名>
・議事録    伊藤無迅

<発表のまとめ>
1.発表のポイント
◆正岡子規が連句を否定したことは「連俳非文学論」としてよく知られている。
 ・子規が新聞『日本』明治26年12月22日付けの「或問」に掲載した所謂「連俳非文学論」である。
 ・その後「連俳非文学論」は人口に膾炙され連句は否定されてきた。しかし子規が試行錯誤しながらも連句に挑戦し作品を残している事実はあまり知られていない。
◆しかし子規が必ずしも連句否定論者ではなかったという虚子の証言もある。
  →虚子が昭和29年に『玉藻』に発表した、子規と連句に関する虚子の回顧談がそれである。
◆また東洋大谷地教授も「連句衰退の原因をすべて子規の「連俳非文学論」に帰すことには検証が必要との見解を示している。
→「死者と共に生きる−脇起こし俳諧の可能性−」
(東洋大東洋学研究所、研究プロジェクト発表会資料,2015.1.10)
◆その検証に入るに当たって発表者は以下の点の資料を準備した。
 ・子規はどのような連句作品を残していたのか。→ 資料1
 ・その作品の中から作品一巻を選び作品の註解を試みた。→ 資料2
◆子規の残した連句作品について。 → 資料1
 ・宮坂静生の『正岡子規−死生観を見据えて−』(明治書院、H13.9.19)から二十三巻の作品があるという情報を得、その作品がどのような作品であったかを一巻ごとに文献で確認することにした。
 ・その結果、現在までに確認できた作品は十巻である。また、その過程で宮坂氏の著書には未記載の作品を一巻(子規独吟百韻、明治28年12月29日)発見した。
 ・他に子規が選をして作成した『俳諧かるた』がある。これは付合いの作品ではないが歌仙の流れを意識して選されたものと思われる。
 ・なお子規と同座した主な連衆は、碧梧桐、極堂、虚子、可全、露伴、紅緑、肋骨、古白、雪燈など。
◆子規が同座した連句作品の注解について。 → 資料2
 ・注解で取り上げた歌仙は明治29年6月に巻いた「草庵」と前書きのあるもので、当時森鴎外が発行していた『めさまし草・まきの八』に掲載されていたものである。
 ・発句から初裏折端までの十八句(半歌仙)を対象に、「作者」、「句解」、「季」、「付合」、「付味」について発表者が注解し、出席者から自由に意見を述べてもらった。
 ・なお、出席者の中に連句の捌(さばき)経験を持つ、堀口希望氏と地元瑛子氏が居られて、両氏から注解に対する貴重なコメントがあった。
2.まとめ乃至は所感
 ・今回の発表を聞いて、巷間言われている「連句否定論者子規」は必ずしも当たってはいないと思われる。その理由は、
@ 本発表では子規が関わった連句作品が二十四巻もあり、その期間は明治23年から明治31年の長きに渡っていること。
A 問題の新聞『日本』に子規が掲載した「連俳非文学論」は明治26年12月であるが、新聞『日本』は陸羯南率いる国民主義者の結社「日本」のプロパガンダ紙でもあった。その『日本』の文学的イデオローグの役割を担っていた子規(杉浦明平「『薄っぺらな城壁』をめぐって」より)ならではの大衆啓蒙的表現であった可能性もある。つまり現実を直視する欧米流ものの見方を透徹させるため、大衆に広く受け入れられていた俳句・短歌を通じてその目的を図ったとも取れなくはない。(なお、この点については子規の短歌革新の思想と併せて検証してゆく必要がある)
 ・文学者として個人に還った子規における連句への思いは、虚子が述べた以下の心情に近いのではないかと思われる。
  「子規は連句を、必ずしも軽蔑していなかったです。ただ連句は一人の作でないから純粋の文学とはいえないと考えていた。また連句の研究は力及ばないともいっていた。俳句に対して連句を疎かにしたとはいえますね。」(俳誌『玉藻』昭和29年)
 ・また、発表者の注解に関する議論、特に捌き経験者の話によると、これらの作品は、当初そこそこの付合いで展開しているが、明治28年10月、夢大(*)と邂逅後、作品の質が格段に上がっているとのことであった。
  *:宇都宮丹靖、松山の人、愚陀仏庵の北隣に居住していた。子規は愚陀仏庵滞在中、夢大に連句の指導を受けている
 ・なお、注解に対する論議の詳細は割愛する。 

 (了)