俳文学研究会会報 No.53   ホーム

日時 平成21年2月7日(土)
内容 講話と句会
場所 甫水会館
句会に先立ち谷地先生より「何故、若者は俳句を敬遠するのかー主題ということ」というテーマでお話いただきました。
プレヴェールの詩、古今和歌集・俳諧七部集・歳時記の部立などを例に、「句の作者が何を詠みたかったか(主題)」がわからないと、若者が俳句に興味を持たないのではないかとのご指摘がありました。
これを解決するためにどうしたらいいかとの話もありましたが、今後の芭蕉会議の席などでお話があるかと思いますので、ここでは省かせていただきます。

 

― 谷地海紅選 ―

◎卵かけごはん大好き春隣 月子
 閉店の貼紙寒の雨に揺れ 靖子
 探偵社の小さき看板余寒風
 外つ国も祖国も枯野まつただ中 さら
 だいじようぶ一人でいくよ木の芽張る 文子
 子が帰つたか大寒のドア閉まる 久子
 宅配の人ささげ持つ寒卵 千寿子
 友逝けり成人の日の孫を見ず 巧  
 江の電をフリー切符で春の海 富子
 公園にただ空を見て君とゐる 良子

 

互選結果

不揃ひに幸せ宿る恵方巻き 邦雄 7
しんしんと霜降る夜の脈の音 美規夫 6
人の背のまるしと思ふ二月かな 海紅 6
しなやかに生きよと吾に野水仙 つゆ草    6
青空を四角に切つてビルの春 美知子 5
身の内の鬼は眠らせ豆を撒く 正浩 5
だいじようぶ一人でいくよ木の芽張る 文子 5
風二月失意を知りし十二歳 文子      5
梅咲いて楽しき起伏ありにけり 正浩 5
豆まきや鬼にとどかぬ夫の声 光江      5
顔上げよ赤い実食べよ寒雀    かずみ      5
公園にただ空を見て君とゐる   良子       5
甘酒の小旗も見えて梅の花 4
小流れに鮠の一閃春立てり 希望 4
庭下駄の赤いはな緒や梅の宿 月子 4
冴え返る指先に棲む静電気    月子       4
卵かけごはん大好き春隣     月子       4
金柑の幸せを呼ぶ色となり ひろし 3
閉店の貼紙寒の雨に揺れ 靖子 3
笙の音や異人のまじる寒稽古 光江 3
十本の水仙十本分さびし 正浩 3
焼芋のホカホカフカフカハヒフヘホ 芳村 3
子が帰つたか大寒のドア閉まる 久子 3
ままごとや一つは母の雛かな      光江      3
金星冴ゆ昭和をはりし日もけふも    希望       3
友逝けり成人の日の孫を見ず 巧       3
春立つや翁媼に砂糖菓子 久子 2
駅伝のランナー雪の富士を背に 靖子 2
明日叶ふ再会春の星あまた 海紅 2
人逝きて雲の階段消々に 富美子 2
薄氷の岸を離れてゆく時刻 海紅      2
探偵社の小さき看板余寒風     2
「要介護2」光の春にかざします 瑛子     2
受験子の着席まづは眼鏡拭く ひぐらし 2
風が研ぐ梢に凛と梅蕾 林書 2
手水汲む龍神の口浅き春 ひぐらし 2
老といふことは悲しや夜の目ざめ   栄子 2
押し開く霊安室の隙間風      芳村 2
公園デビュー光の粒も梅の香も   美知子 2
江の電をフリー切符で春の海     富子 2
蝋梅の恥じらふ如く俯けり      美規夫 2
今日もまたオリオン探す帰り道    由希 2
スキー靴足だけ肥えぬ不惑かな 邦雄 1
草の芽の背伸びしてをり猫の路 はな 1
初詣神か仏かお大師か 蒼子 1
初夢や母を頼むと笑まふ父 喜美子 1
初旅や飛鳥の天女に逢ひにいく 信代 1
よろこびがよろこんで来る福は内 美雪 1
髪染めて小春に老の若返り 林書 1
指先で薄氷つきて小舟なり 富子 1
春立つやほのかに昴ゆらめきて 千寿子 1
たんぽぽは地を這ひ陽を浴び顔を上ぐ かずみ 1
外つ国も祖国も枯野まつただ中 さら 1
どんと焼き憂ひも苦もとんで行け 林書 1
相撲取禰宜にまけじと鬼やらひ 1
寒月や日々に衰ふ癌の兄 ひろし 1
君の手のぬくもり感じてや初ひので 蒼子 1
水鳥のどこへ行つたか風の後 富美子 1
着ぶくれて幸こぼし行く二人連れ つゆ草     1
宅配の人ささげ持つ寒卵       千寿子    1
ローカル線蓬のかをりコトコトと   富子     1
大寒やガチャツと釜の炊き上がる   久子     1
日毎みる河津桜のつぼみかな      栄子      1
初優勝箱根駅伝東洋大 佳子      1
草萌のどつとどよめく牛合せ      ひぐらし    1
立春の渚に光る砂の文字        失名 1

 

参加者 
谷地海紅  尾崎喜美子 奥山美規夫 青柳光江 小出富子 五十嵐信代 中村こま女 三木つゆ草 金子はな  山本栄子 金井巧  天野さら 水野千寿子 米田かずみ 情野由希  大川蒼子  谷美雪  堀口希望 安居正浩 根本文子 椎名美知子 大江月子  松村實  内藤邦雄 竹内林書 ひぐらし 大箭富美子 千輪久子  谷地元瑛子 宇田川良子

 
欠席投句者
大原芳村  梅田ひろし 園田靖子 平岡佳子 笠井裕子
 

目黒界隈             奥山 美規夫

「目黒のさんま」で知られる目黒である。歴史の名残を仁義なきご当地争いで、目黒区の「目黒のさんま祭」と品川区の「目黒のさんま祭り」が開催されている。目黒駅が品川区に属していることから、地元商店街に混乱をもたらした。開催日をずらし、さんまの仕入れ先も異なり、溝は埋まらない。共同開催は何かのきっかけが無い限りあり得ないのだろう。
きっかけは作られるのか作るものかは運の囁きに聞くしかない。悪戯なきっかけで、八百屋お七と吉三は知り合った。恋い焦がれるお七が吉三会いたさに火を放ち、罪人となり火刑となった。吉三は諸国修行の末、西運と改め大円寺にお七地蔵尊を建て弔った。恋の埋火は消えてなかったか一七七二年大円寺が出火元で大火となった。その後死者の供養に五百羅漢が作られ、大円寺の石仏群として、今日残っている。
仏師から出家した松雲禅師による寄木作の五百羅漢が、天恩山羅漢寺に残されている。五三六体在ったが幾多の天災地変で、三〇五体が現存されている。江戸期を代表する木彫りで、東京都重要文化財に指定されている。静かな堂内で羅漢と向き合えば、心に宿る弱さ、醜さ、愚さえも消し飛んでしまいそうな空気で迫りくるものを感じる。
羅漢で清められ、表にでれば、再び拭いきれぬ悲しみが湧く。昭和二十年広島の原爆で犠牲になった慰問劇団桜隊の慰霊碑が建っている。園井恵子の名があった。昭和十八年封切り伊丹万作監督「無法松の一生」に出演していた。無法松が焦がれる未亡人役だった。戦時中の暗さなど微塵も感じられない、斬新な撮影が記録に残っている。花形女優のフットライトならぬ、殺人光線を浴びる最後を誰が予想できただろうか。「桜隊散る」で新藤兼人がメガホンを撮り悲劇の歴史を伝えている。
救われぬ宿命ともいう悲運から逃れるかのように、人は縁起に縋ろうとする。縁起の目黒不動は近くにある。ここで富くじが売られ、湯島天神、谷中感応寺で江戸の三富として知られている。
裏には青木昆陽の墓がある。魚屋の息子が大岡越前の推挙で、学者までのぼりつめ甘藷先生と親しまれ飢饉を救った人物だ。
  江戸の名残りといえば自然教育園である。江戸時代高松藩下屋敷があった処で樹齢三百年の大蛇の松という古木が残っている。戦後になっても暫く公開されなかったので武蔵野の自然が色濃く残されている。但し整備せず植物の生態に任せているので、森は変容を続けている。人は移ろいやすく、この先都会の真ん中の限られた緑地を、何処まで守り通せるのだろうか。

甫水会館「おてもと句会」
 このたびは句会・懇親会場の甫水会館をそのまま「おてもと句会」場にして、席題「梅」によって酔眼の即興句を披露しあった。例によって、作者名の下にある数字は互選の得点である。いつも即席の句評を添えて、愉しくまとめてくれる無迅さんがあいにく欠席。よって役者は落ちるが、やむなく海紅が披講を担当。そのため職業病が出てしまい、てにをはや言い切り表現の一部を直した句が数句あり。お許しいただくと共に、御研鑚の参考にしていただければ幸いである。

幸せは梅の蕾の中にあり つゆ草 15
人がみな美しく見ゆ梅の寺 美知子 12
  鎌倉文学館
康成の眼光いまも梅の花 希 望 11
夏目家の猫も来てゐる梅見かな 11
梅の花何が幸せ不幸せ 正 浩 9
散策路梅ほころびて足ゆるむ 主 美 8
梅の木やおみくじ結ぶ受験生 光 江 8
梅の木やビクとも風の動かざる 喜美子 8
雨戸あけまづ確かめる庭の梅 信 代 7
梅生けて明るくなりぬ一人の居 林 書 6
のどあめに梅味選び春来たる 良 子 6
懐かしき梅花の香る通学路 由 希 6
探梅や伊豆の踊子てふむかし 海 紅 6
プレヴェールの恋に朽ちなむ梅の花 ひぐらし 5
地震に逝きし人に咲きたる梅の花 さ ら 4
結婚の報せを告げる紅梅色 こま女 3
康成に射竦められし梅であり 文 子 3
白梅やホームの長い北鎌倉 月 子 3
梅咲いて双子の姉妹出合ひけり 千寿子 2
天神の梅にあやかりたくて来し 蒼 子 2
梅まつる天神様に女坂 富 子 1
初句会満開の梅の木のごとし は な 1
紅白の梅とこしへをいのるかな 美 雪 1
めぐり来る川端の梅恋行方 酔 朴 1
親戚の新年会にて
盆栽の梅の花咲きあから顔 村 愁 1
俳文学研究会会報 No.52
   
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