ホーム


時鳥啼や湖水のさゝ濁り
丈草(丈草発句集)

句意は「ほととぎすがけたたましく鳴いて過ぎて行ったよ。今私の眼前には少し濁った湖が広がっている」
丈草は近江にいたので、この湖は琵琶湖と考えられる。
句のポイントは「ささ濁り」にある。丈草はほととぎすの声の過ぎたあとの湖にいつもと違うかすかな濁りを見た。ほととぎすの鋭い声と穏やかな湖の景だけでも句は十分成立した。ただ「ささ濁り」を見たことにより句に陰影が出て作者の心の揺らぎまで感じられる句になった。その濁りは雨が過ぎたせいかもしれないし、その時の作者の気持ちによりそう見えただけかもしれない。丈草はどちらかと言えば実直と評された俳人でテクニックを弄するとは思えないので、すべて見たそのままを詠んだと考える方が正しいだろう。

(文) 安居正浩
「先人の句に学ぶ」トップへ戻る