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まとふどな犬ふみつけて猫の戀
芭蕉(茶のさうし)

句意は「恋に狂った猫が、ぼおっと横になっている犬を踏みつけて、やみくもに走って行ったよ」

私がこの句を知ったのは朝日新聞の天声人語(2017.2.22朝刊)に「猫の恋」の話の中で、「情熱的な躍動を詠んだ名句の一つ」として載っていたからである。「またうどな」と新聞では表記されていた上五の意味がわからないことで興味をもった。
「またうど」は「全人」でもとは正直、真面目、実直などの意であるが、愚直なことや馬鹿者の異称として用いられたこともあるという(『江戸時代語辞典』)。
そこで私は上記のように解釈したのだが、確かに恋に夢中になった猫が普段怖がっている犬を踏みつけて走っていく状況は面白い。
猫の気合とのんびりした犬の対比の面白さとして取り上げた評釈もあるが、私は猫の夢中さを描いた句ととりたい。

この句の成立時期ははっきりしていないものの、芭蕉にしては即物的な珍しい句という感じがする。

(文) 安居正浩
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