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鶯に手もと休めむながしもと
智月(續猿蓑)

句意は「鶯の声が聞こえてきた。台所で洗い物をしていた手をとめて聞き惚れてしまうよ」

智月は芭蕉の門人で近江膳所の女性俳人。
芭蕉の智月への手紙には、水菜や麩や薬や酒などをもらったことへのお礼が書かれたものが残っている。智月が芭蕉に生活面での細やかな心遣いをしていたことがわかる。

昔掲出句のように、母や祖母が台所の洗い場を「ながし」と言っていたので私には故郷(滋賀県)を思う懐かしさのある句である。

女性のやさしさとかわいらしさが感じられるこの句が智月の代表句として残っているのは、男が求める女性の理想像に近い雰囲気を持っているからではないかと思う。許六の智月評には「才能はあるが女性の句の範囲内に止まっていて句の世界は狭い」とするが、女性俳人が女性らしさを突き詰めるのもまた俳句の一つの進み方かもしれない。

(文) 安居正浩
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