ホーム


飛入の客に手をうつ月見哉
正秀(続猿蓑)

句意は「今日は名月。親しい者が集まって月見の宴もたけなわの時、思いもかけない人物が顔を出した。美しい月にうれしい珍客。みんな手を打って迎えたことだ」

作者水田正秀は近江の人。はじめ尚白に師事したが、元禄3年に芭蕉に入門。近江蕉門の重鎮となる。芭蕉が住んだ義仲寺内の「無名庵」の建築に力を尽くした。

この句「拍手をして迎えた」という解釈もあるようだが、もっとはずんだ空気が感じられる。よく関西の人(という私も関西人)が、誰かが面白いことを言ったり、したりした時、少し大げさに手を叩いて喜ぶことがあるが、そんな雰囲気ではないだろうか。この喜びようを見ると、飛入りの客はみんなから愛されていることが感じられる楽しい句である。

芭蕉は元禄7年正秀宛書簡で「あなたの月の句に感心しました。飛入の客の句を早速『続猿蓑』に入集しましたよ」と書いている。素直な感じが「軽み」をめざしていた芭蕉にはぴったりの句であったのだろう。

(文) 安居正浩
「先人の句に学ぶ」トップへ戻る