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十団子も小粒になりぬ秋の風
許六(『韻塞』)

「宇津の山を過」と前書きがある。

句意は「宇津谷峠の名物の十団子も小粒になったなあ。秋の風が一層しみじみと感じられることだ」

季節の移ろいゆく淋しさを小さくなった十団子で表現している。十団子は駿河の国(静岡県)宇津谷峠の名物の団子で、十個ずつが紐や竹串に通されている。魔除けに使われるものは、元々かなり小さい。

作者の森川許六は彦根藩の武士で芭蕉晩年の弟子。この句は許六が芭蕉に初めて会った時持参した句のうちの一句である。芭蕉はこれを見て「就中うつの山の句、大きニ出来たり(俳諧問答)」「此句しほり有(去来抄)」などと絶賛したという。ほめ上手の芭蕉のことであるから見込みありそうな人物を前に、多少大げさにほめた可能性も考えられる。俳諧について一家言あり、武芸や絵画など幅広い才能を持つ許六ではあるが、正直言って句についてはそんなにいいものがないように私は思う。ただ「十団子」の句は情感が素直に伝わってきて好きな句だ。芭蕉にも教えたという絵では、滋賀県彦根市の 「龍潭寺」に許六作と伝えられる襖絵が残るがこれは一見の価値がある。   

(文) 安居正浩
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