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あかあかと日は難面も秋の風
芭蕉 (おくのほそ道・四季千句・いつを昔・卯辰集)
太陽は赤々と照りつけてきびしい残暑であるが、時折吹いてくる秋風の爽やかさに慰められる、という意。『おくのほそ道』にある「途中吟」という前書は、紀行という様式を整える必要から付けられた成立事情で、なくもがなとも見える。だが作者には羇旅という主題を逸れてはありえない句であったらしく、真蹟自画賛や懐紙で伝来するほとんどの句文に「北国行脚」「北国の磯づたひ」「旅愁をなぐさめ侍る」「旅愁なぐさめ兼ねて」などという表現を織り込んでいる。またこれらの句文によれば「涼しさや草むらごとに立ちよればあつさぞ増さる床夏の花」(むねゆき・古今六帖)、「秋立つ日よめる/秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」(敏行・古今・秋上)という古歌を踏まえた句作りであったことも明らかだが、それを「旅愁」に置き換えた点に新しさを見届けるべきであろう。さらに句文は、「めにみえぬ風の音づれ」を萩・薄・刈萱の葉末の動きでとらえていることをも明らかにしている。とすれば、この句は句文融合、つまり前書(詞書)と句を一体と扱うのが最善の作品ということになる。
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