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西河
ほろほろと山吹ちるか滝の音
芭蕉(笈の小文・春・貞享五)
 山吹が川岸に咲きみだれ、こぼれる姿を、川音を背景に詠んで美しい。言葉の側面から見ると〈ほろほろと〉という形容がこの句の生命であろう。これは、むかしから黄葉の落ちる姿や、衣のほころびるさま、また山鳥の類の鳴き声として感情移入されてきた言葉で、〈山吹ちるか〉という詠嘆と呼応して、一句のイメージを確かなものにしている。創作の現場から言えば、前書の「西河」はニジコウと読む吉野川上流の早瀬の地で、「滝の音」は岩間をみなぎり落ちる水音も含む。また日本語の歴史からみれば、「よしの川岸の山吹ふく風にそこのかげさへうつろひにけり」(貫之・古今・春下)以後、吉野川と岸の山吹との配合は常識(『類船集』)で、芭蕉は真蹟自画賛で〈桜にもをさをさをとるまじきや〉とそのあわれを再発見している。
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