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乾坤無住同行二人
よし野にて桜見せふぞ檜の木笠
芭蕉(笈の小文・春・貞享五)
 檜笠よ、これより吉野に旅立って、その名高い桜の花を心ゆくまで見せてやろう、という意。『笈の小文』には〈いでや門出のたはぶれに事せんと笠のうちに落書す〉とあって、門人杜国を道連れにした芭蕉旅立ちの昂揚がわかるが、前書は本来巡礼などが笠の内側に書き付ける文句で、つねに仏と共に乾坤(天地)の間を修行する一所不住の心掛けを意味する。仏道修行に似せた芭蕉・杜国二人連れの風狂の旅である。その旅を簡略になぞれば、名僧増賀聖ゆかりの多武峰から臍峠(細峠)を越えて吉野山裏口へ龍門滝・西河と辿って吉野山に入り、西行が草庵を結んだと跡と伝える苔清水、後醍醐帝陵などを見て高野山に向かうまでの旅程で、風雅に徹する旅のなかなか苛酷であることを直視するべきだろう。
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