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兼題解説 淑気・火事

淑気(しゆくき)
〔本意・形状〕 元々は漢詩で使われた言葉。新春のめでたい気分が天地あまねく満ち満ちていること。旧暦採用の頃はあくまでも初春を寿ぐ気持が強かったと思われるが、新暦の現在ではその時期寒いこともあって新年の荘厳さ表す場合が多いようである。(櫂未知子)
〔例句〕 ・葛飾は男松ばかりの淑気かな       能村登四郎
  ・襟替へて八十の母淑気満つ        山田みづえ
  ・なかんづく祖父のほとりの淑気かな    鷹羽狩行
  ・淑気とも熱気ともラガー入場す       長岡真一
(堀口希望)

火事(かじ・くわじ)
〔本意・形状〕 火事は必ずしも冬とはかぎらないが、やはり暖房器具を初めとして、火に近づく機会の多い冬が火事の多い季節である。「火事は江戸の華」などともいうが、江戸時代はいったん火事がおこると大火になることが多かった。消火設備の発達した現代であるか、震災などに付随した大きな火事なども記憶に新しく、特に風の強い冬の火事が心配されている。
〔季題の歴史〕 『新俳句』(明治31)に「森の上に江戸の火事見ゆ夜の曇 子規」「道端に夜具を積みたる火事場かな 碧玲瓏」の句を所出。
〔類題・傍題〕 大火 遠火事。
〔例句〕 ・寄生木やしづかに移る火事の雲   水原秋桜子
  ・暗黒や関東平野に火事一つ     金子兜太
  ・泣く人の連れ去られゐし火事明り  中村汀女
  ・いく度の大火の草津盛衰記      高野素十
  ・火事遠し白紙に音のこんもりと    飯田龍太
(根本文子)