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兼題解説 陽炎・大試験

陽炎(かげろう)
〔本意・形状〕 日差しの強いときに、地面近くの空気が熱せられてゆらゆら揺らめき立つ現象。夏の浜辺などでも見られるが、野原が揺らいで見える情趣が特に麗らかな春の日の気分に合うので、春の季語になっている。和歌の世界では古来、「かげろひの」は「あるかなきか」「ほのか」「燃ゆ」の枕詞になっており、神秘的で儚いものを暗示する本意が詠まれてきた。
〔季節〕 三春
〔類題・傍題〕 野馬(かげろう) 糸遊(いとゆう) かげろい
  ・ちらちらと陽炎立ちぬ猫の塚        夏目漱石
  ・妻亡しのむなしさもまたかぎろへる    森澄雄
  ・陽炎の奥に水澄むいくさの野       玉城一香
  ・陽炎に売るジーンズの褪せ加減     長谷川鉄夫
(堀口希望)

大試験(だいしけん)
〔本意・形状〕 「大試験」は一般的には大きな試験、大事な試験をいうが、俳句では期末試験や中間試験を小試験というのに対し卒業や進級に際しての試験を「大試験」とよんだ。現在は就職活動などと重なり、「大試験」の緊張感はやや薄れているが、学校生活の節目になる大切なものであり、努力や、苦しみのはての達成感は忘れがたいものとなる。
〔季題の歴史〕 今井柏浦編『最新二万句』(明治42)に〈大試験裁ち損ひし袴かな 釜人〉を所出。明治以降の季題である。 
〔類題・傍題〕 入学試験、進級試験、卒業試験。
  ・大試験山の如くに控へたり       高浜虚子
  ・穗積憲法最も苦手大試験        富安風生
  ・大試験了へたる双児の爪伸び居り  中村草田男
  ・鉛筆の今を転がす大試験        秋尾敏
  ・大試験重き鉄扉を押し開く       栗田やすし
(根本文子)