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兼題解説 蛇穴に入る・玉蜀黍

蛇穴に入る(へびあなにいる)
〔本意・形状〕 夏の間、地上で活動していた蛇が、晩秋に冬眠のため穴に入ること。その時期は秋の彼岸頃といわれているが、実際にはもう少し遅いらしい。数匹から数十匹がどこからともなく集まり一つ穴に入り絡み合って冬を越すという。なお、蛇は穴を掘れないから多分鼠の穴を使うのだろうと江戸時代の書にある。
彼岸過ぎても穴に入らないものを「穴惑い」という。いずれも俳諧独特の季語である。
〔類題・傍題〕 秋の蛇・ 穴惑い
  ・穴撰みしてやのろのろ野らの蛇      小林一茶
  ・蛇穴や西日さしこむ二三寸         村上鬼城
  ・秋の蛇去れり一行詩のごとく        上田五千石
  ・きつと未練まだある蛇の穴に入る     島雄績子
  ・蛇穴に入る前すこし遊びけり        能村登四郎
(堀口希望)

 

玉蜀黍(とうもろこし)
〔本意・形状〕 イネ科の大型一年草、茎は太く高さは二メートルを超す。夏の終わり頃茎の上に芒の穗のような雄花を、葉腋(ようえき)に雌花穂をつける。実になるのはこの雌花穂で、30センチほどの軸面に豆のような実が数列にびっしりと付いている。実には白、黄色、斑(まだら)などあり、焼いたり、ゆでたりして秋の味覚を楽しむ。甘くて香ばしく、栄養がある。
〔季題の本意〕 『和漢三才図会』(正徳3)に「南蛮將来す。よつて南蛮黍と称す。その形状、上に説くところはなはだ詳らかなり。ただし、苞の上に髭を出す。赤黒色にして長さ四五寸、刻煙草(きざみたばこ)に似たり。しかるを白髭といふは、異なるのみ。その子(み)、八月黄熟す」。
〔類題・傍題〕 南蛮黍、高麗黍、唐黍。
  ・もろこしを焼くひたすらになりてゐし         中村汀女
  ・唐黍焼く母子わが亡き後の如し           石田波郷
  ・啄木の詠みしもろこし焼きにけり           加藤三七子
  ・唐黍に織子のうなじいきいきと            金子兜太
  ・干し了(を)へて玉蜀黍の火山灰(よな)はらふ   大島民郎
(根本文子)