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兼題解説 鳥総松・風花・寒卵

鳥総松(とぶさまつ)
〔本意・形状〕

筆者は鳥総松なるものをみたことがない。俳句に親しむまで聞いたこともなかった。よって以下は歳時記にしたがう。
鳥総松とは門松を取り払った後の穴に(あるいは盛砂をして)その一枝を挿しておく、その松をいう。いつ取り払うかは地域によって異なるのだろうが、1月14〜15日頃のようである。

〔場所〕 特に限定されない。
〔季題の歴史〕

鳥総松についての記述は江戸時代の文献にあるが、江戸時代の例句は『角川俳句大歳時記』などを見ても記載がない。

〔類題・傍題〕

留守居松ともいう。

  ・轍あと絶えざる門や鳥総松     高浜虚子
  ・門もなく大百姓の鳥総松       本田あふひ
  ・父も長命ははも長命鳥総松     黒田杏子
  ・鳥総松子に残すものなにあらむ   樋口英子
  ・吾が肩に星降るごとし鳥総松    庄司一宇
(堀口希望)

 

風花(かざはな)
〔本意・形状〕 雲もなく青く晴れた空から、まるで花びらのように雪がひらひらと舞い散ることがある。これは山の方で雪が降っている時、雪が上層の風に吹き送られて、風下の山麓地方に飛んでくる現象である。抜けるような青空にとけ入るようで、まことに美しい。
〔季題の歴史〕 『季寄新題集』(嘉永元年)に十月 として所出し、「青空ながら雪のちらつくことなり」とある。
  ・風花や美しき夜に入らむとす        星野立子
  ・いまありし日を風花の中に探す       橋本多佳子
  ・天上に還らんとする風花あり        沢木欣一
  ・風花や市に箸売る能登乙女         山田春生
  ・風花のかかりてあをき目刺買ふ       石原舟月
(根本文子)

寒卵(かんたまご)
〔本意・形状〕 寒の頃の卵は特に栄養価が高いとされることから珍重され、季語としても定着したのであろう。(晩冬)
〔場所〕 家庭
〔別名・傍題〕 なし
〔分類〕 生活
  ・寒卵コツと割る聖女学院      秋元不死男
  ・寒卵置けばころがる飯噴く方    能村登四郎
  ・寒卵わが晩年も母が欲し      野沢節子
  ・東京は暗し右手に寒卵       藤田湘子
  ・寒卵主治医に優る妻がゐて    大沼眞
  ・寒卵机にひとつ影ひとつ      宇多喜代子
(安居正浩)