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兼題解説 酉の市・焼芋・山茶花

酉の市(とりのいち)
〔本意・形状〕

鷲(おおとり)神社・大鳥神社の祭礼である。酉の市は全国の鷲(大鳥)神社で開かれるが、現在は台東区千束にある鷲神社の酉の市が特に盛んで、当日は大変な混雑である。11月(かつては旧暦の11月)の酉の日に開かれる。「一の酉」「二の酉」があるが、年によって「三の酉」まである。開運の神として信仰を集め、福を掻き込むということから七福神・打出の小槌・大判・小判・松竹梅・鶴亀などの縁起物を飾り付けた熊手が特に喜ばれている。

〔季題の歴史〕

『毛吹草』(正保2)・『増山の井』(寛文7)などに所出。

〔類題〕 酉の町・お酉さま・一の酉・二の酉・三の酉・熊手市・熊手
なお、『最新俳句歳時記(冬)』(山本健吉・文芸春秋)では「酉の市」に熊手の句を含めているが、『角川俳句大歳時記(冬)』では「熊手」という別項を立てている。
  ・世の中も淋しくなりぬ三の酉        正岡子規
  ・板前を連れし女将の大熊手        梅澤信一
  ・素うどんの薬味の匂ひ一の酉       鷹羽狩行
  ・口上を風が持ち去る一の酉        川上澄男
〔追記〕 酉の市の歴史は古いのに、小生が調べた上記2冊の歳時記およびその他数冊の歳時記に江戸時代の例句が載っていないのはなぜだろうか。   
(堀口希望)

 

焼芋(やきいも)
〔本意・形状〕 甘藷の日本伝来は天和元年。焼芋が江戸で名物になったのは享保以降と言われる。明治には流しの焼芋屋も行われるようになった。
小石を焼いた中に埋めて焼く「石焼芋」、壺の中で蒸し焼きにする「壺焼芋」、油で揚げ、蜜をからめ、胡麻をまぶした「大学芋」などがある。
戦後は子供や女性に喜ばれた。(三冬)
〔場所〕 家庭・道路など
〔季題の歴史〕 「焼芋」の句は『ホトトギス雑詠全集』に明治30年の虚子の句、『新俳句』に明治31年の子規の句などがある。
〔別名・傍題〕 焼藷・焼芋屋・壺焼芋・石焼芋
〔分類〕 生活
  ・鉤吊りに焼芋菩薩壺を出づ         皆吉爽雨
  ・帝劇の灯を借りてゐし焼芋屋        大牧広
  ・焼芋を買ひ宝くじ買つてみる        逸見未草
  ・詩貧し掌に焼芋の熱さのせ         成瀬桜桃子
  ・焼藷屋来て去るまでの厠かな       鈴木鷹夫
(安居正浩)

山茶花(さざんくわ)
〔本意・形状〕 ツバキ科の常緑小高木。日本原産で、四国、九州の山地に自生する。初冬にかけて、枝の先に椿に似た五弁の花を咲かせる。原種は白だが、徳川中期から園芸種として改良され、現在では、紅、桃、紅白の絞り、周囲が赤く中が白いもの、八重咲きもある。ひらひらと風に散る花びらに風情がある。
〔季題の歴史〕

『初学抄』(寛永18)、『毛吹草』(正保2)、『増山の井』(寛文3)以下に10月として所出。

〔別名・傍題〕 茶梅(さざんくわ)、姫椿(ひめつばき)
  ・山茶花のここを書斎と定めたり        正岡子規
  ・山茶花やいくさに敗れたる国の        日野草城
  ・山茶花は咲く花よりも散ってゐる       細見綾子
  ・大土間はすでに日暮や姫椿          岡本眸
  ・霜を掃き山茶花を掃く許りかな        高浜虚子
(根本文子)