ホーム
兼題解説 二百十日・葛の花・蟋蟀

二百十日(にひゃくとうか)
〔本意・形状〕

立春から数えて210日目。9月1日・2日頃に当たる。
暦注(昔の暦において、本来記されるべきことのほかに付随的に記される事項)の一つ。もともと伊勢地方の漁師の間で厄日とされていたものが、貞享元年(1684年)の貞享暦に記載され全国に広まった由。
二百十日から二百二十日にかけては台風シーズンであるが、この時期は稲の開花期であったので、特に農家では厄日として怖れた。

〔季題の歴史〕

『通俗志』(員九著の俳諧手引き書。享保2)に「七月」 とて所出。

〔類題〕 厄日・風祭
  ・ころがして二百十日の赤ん坊      坪内稔典
  ・窯攻めの火の鳴る二百十日かな    廣瀬町子
  ・紀の川の紺濃き二百十日かな     大屋達治
  ・釘箱の釘みな錆びて厄日なる      福永耕二
(堀口希望)

 

葛の花(くずのはな)
〔本意・形状〕 秋の七草の一つ、八月ごろ葉のつけ根から20センチほどの花穂を出し、紫紅色の花をつける。花の一つ一つは蝶形花で、下から順に咲き、咲き終わると莢実(さやみ)ができる。根から採れる葛粉は料理や菓子に欠かせない。花は蔓延る葉に隠れて見えにくいが、優雅な秋らしい色の花である。
〔季題の歴史〕 『万葉集』巻八、山上憶良の「萩の花尾花葛花撫子の花女郎花また藤袴朝貌の花」がよく知られている。しかし古典和歌の世界で花は殆ど詠まれず、秋風にひるがえる白い葉裏の印象から「葛の裏葉」が親しまれている。
〔類題〕 葛咲く
  ・葛の葉の吹きしずまりて葛の花      子規
  ・葛の花天の限りを雨音す          大野林火
  ・焼きむすび少し焦げ過ぎ葛の花      草間時彦
  ・夢にのみ人隠れくる葛の花         野沢節子
  ・花葛の下暗がりを水いそぐ         黛執
(根本文子)

蟋蟀(こおろぎ)
〔本意・形状〕 秋鳴く虫の中で最も身近に居る。「えんまこおろぎ」や「つづれさせこおろぎ」など、小さなものから大きなものまで種類も10以上ある。色は黒褐色を基調、暗くなるとよく鳴く。
古今時代から江戸時代までは「こおろぎ」を「きりぎりす」と呼んでいた。
(初秋)
〔場所〕 庭・野原・畑など
〔季題の歴史〕

『万葉集』巻十・秋雑に蟋蟀を詠む歌あり(ただし秋鳴く虫の総称)。

『毛吹草』(正保2年)に8月、『増山の井』(寛文3年)などには7月として所出。
〔別名・傍題〕 ちちろ・つづれさせ・いとど・きりぎりす
〔分類〕 動物
  ・こほろぎの覗いて去りぬ膳の端       吉川英治
  ・こほろぎのこの一徹の貌を見よ       山口青邨
  ・こほろぎやいつもの午後のいつもの椅子  木下夕爾
  ・蟋蟀に覚めしや胸の手をほどく        石田波郷
  ・こほろぎや眼を見はれども闇は闇      鈴木真砂女
(安居正浩)