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兼題解説 聖五月・セル・時計草

聖五月(せいごがつ)
〔本意・形状〕

ローマ人やゲルマン人の春の到来を祝う「五月祭」とマリア信仰が結びつき、カトリックでは5月を「聖母月」「マリアの月」などと言うことから、わが国でも新緑と薫風のみずみずしい季節感を背景に「聖五月」の呼称が季語として定着したようである。

〔季題の歴史〕 ごく新しい季語であることは確実で、「例句」にあげた平畑静塔(明治38年生れ)の句あたりを嚆矢とするのではなかろうか。
〔類題〕 歳時記によれば「聖五月」は「マリアの月」「聖母月」などと共に「五月」の傍題・類題とされている。
  ・鳩踏む地かたくすこやか聖五月    平畑静塔
  ・馬の目の虹彩あをき聖五月      中村与謝男
  ・百塔の鐘ひびきあふ聖五月      河野彩
  ・血筋透く乳房の張りや聖五月     成木幸彦
(堀口希望)

 

セル
〔本意・形状〕

元々は外来の布地の名称。薄手の毛織物で、単衣のものを言う。若葉の頃に袷を脱ぎセルを着る。男女ともに用いる。
肌触りや着心地がよく、そのさわやかな感じから初夏の季語。セルを着た時の心の動きが句に詠まれることが多い。

〔場所〕 家庭
〔季題の歴史〕

セルは明治以降流行

〔分類〕 生活
  ・セルを着て手足さみしき一日かな    大野林火
  ・もう煙草入れない袂父のセル       成田清子
  ・風のなか行くセルの手に新刊書     柴田白葉女
  ・このセルの後アルバムに父あらぬ    北川英子
  ・形見分けに洩れてしまひしセルなりし  湯橋喜美
(安居正浩)

時計草(とけいそう)
〔本意・形状〕

トケイソウ科、その名の通り花の構造が時計の文字盤に似ているのでこの名がある。一見、美しい花というより機械的な感じがする。南米原産の常緑蔓性植物。夏、葉腋に大形の花を開く。萼は白、花弁は薄桃色、その内側に多数の糸状の副花冠が2列に並ぶ。中央は白、先端は紅紫色、雌しべの先が大きく三分して時計の針に似る。これがキリストの十字架にも似ることでパッションフラワーとも呼ばれる。種類が多く同属の別種にクダモノトケイソウがあり、パッションフルーツができる。

〔季題の歴史〕 『清鉋』(延享二以前)『改正月令博物筌』(文化五)に五月、『小づち』(明和七)『鷹の白尾』(安永五)などに六月として所出。
『改正月令博物筌』に「花、日のうちにいろいろと変わる。これによって時計の名あり」。『栞草』(嘉永四)に「花ひらくときの様子、傀儡をあやつるがごとく回る蘂あり、熨す葉あり、上下へかへる葉もあり。そのさま時計の機(からくり)のごとし。享保八年長崎よりはじめて来たる」。『月堂見聞集』に、享保十一年「六月上旬のころ大坂にて、ある人土桂草を歯にてかみ切り候ところに、たちまち毒あたりて死す。このこと御奉行へ達しけるにや、大坂は川の水を飲む者多し、この草を流すこと堅くあるまじく候、一所に集めて焼き捨て地中に埋むべきよし、御触これあり候よし」。
〔類題〕 ぼろんかずら
  ・鐘撞の窓に開くや時計草          花晩(「類題発句集」)
  ・どの國の時計に似たる時計草       後藤比奈夫
  ・五月朔日初花なりし時計草         滝春一
  ・母老いてさらに早起き時計草        高橋克郎
  ・時計草日時計ならず夜も咲く        若林南山
(根本文子)