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兼題解説

接待 (せったい)
〔本意・形状〕

飲食物を人に施し、ふるまうこと。
陰暦七月、残暑のきびしいころ、寺もうでに歩く人や仕事で荷を運ぶ人などのために、のどをうるおす湯茶をふるまうこと。寺の境内の日陰や、町の通りの軒下に大釜を据え、ひしゃく、湯飲みを用意して通行人をもてなした。湯茶のほかにちり紙や草鞋の接待もあった。特殊なものでは、かみそり接待と言って月代(さかやき)を剃ってやる接待もあった。

〔季題の歴史〕 『類船集』(延宝三)に「七月二十四日、六地蔵めぐりには、道すがら摂待あり。炎天のころは水桶に茶碗を添えて、往来のひとに飲ませはべるも摂待の心なるとかや。別時、念仏堂供養に群集なる庭に摂待をせり。
『年浪草』(天明三)に「今、仏寺あるいは四街道中に店を開きて、往来の人に湯茶を施す、これを名づけて接待といふ」。
『改正月令博物筌』(文化五)に「摂待のことは、常にもあれども、この月初めより二十四日ごろまでもっぱらにあり」。
〔別名〕 門茶(かどちゃ)
  ・接待や菩提樹陰の片庇             蕪村
  ・せったいや古郷へ帰るすまひ取り       几菫
  ・摂待の寺賑はしや松の奥           虚子
  ・接待や辞儀も申さずいただきぬ        鬼城
  ・風たちて月うち曇る門茶かな         大魯
  ・手桶なる桔梗萎れつ門茶の日        紅緑
(根本文子)

 

流星 (りゅうせい)
〔本意・形状〕 宇宙塵が地球の大気中に飛び込んで、摩擦で発光するもの。流星はいつでも見られる自然現象であるが、空気の澄んだ秋にもっとも目につくため、秋(三秋)の季語としている。
〔季題の歴史〕 「枕草子」に「よばひ星、すこしをかし。尾だになからましかば、まいて」とある。
『大歳時記』(集英社)によると大正3年の『新撰袖珍俳句季寄せ』に初めて掲載された由である。思うに、それまでは句に詠まれることはあっても、季語として認識されておらず、「いそがしや野分の空の夜這星」(一笑)・「をり姫に推参したり夜這星」(一茶)・「飛び消ゆる菊の夜露やよばひ星」(立圃)のように、他の季語と取り合わせて詠まれてきたものが、上記季寄せ以後独立した季語になったのではなかろうか。
〔別名・傍題〕 流れ星・夜這星・星流る・星飛ぶ・星はしる
  ・星の飛ぶもの音もなし芋の上         阿波野青畝
  ・流星やかくれ岩より波の音          加藤 楸邨
  ・流星の針のこぼるるごとくにも        山口 青邨
  ・流星群能登くろぐろと北へ伸ぶ        綾野 南志
(堀口希望)

 

衣被 (きぬかつぎ)
〔本意・形状〕 里芋を皮のまま、ゆでたもの。八月の十五夜を芋名月といい、これを供える風習がある。皮を剥いて塩をつけて食べるが、特に関東で好まれた。
〔場所〕 家庭
〔季題の歴史〕 『俳諧例句新撰歳時記』(明治41年)に季題のみ所出。
〔別名〕 里いもむし
〔分類〕 生活
  ・たらちねの母と二人や衣被        竹窓
  ・予測みな当る淋しさ衣被         渕上千津
  ・雨夜きて仏の前のきぬかつぎ      大野林火
  ・きぬかつぎ指先立てて食うべけり    草間時彦
  ・剥くといふ愉悦もありぬ衣かつぎ     潮 仲人
(安居正浩)