【はじめに】
卯の花は密生する小花で雪・月・波・晒し布などに見立てられてきた和歌題。相撲は本来、宮中の相撲節会で、その季節から秋祭との関わりで詠まれた。よって夏場所を季とするに足る佳句はまだ少ないようである。この度は関取遠藤を詠む情念の句が多かったように思う。だが情を優先する句はなかなか難しい。
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◎卯の花の香にロードレーサー漕ぎ返す 泰
【評】ロードレーサー(ロードバイク)が漕ぎ返したとは美しい。但し「卯の花の香に」はくどいので「卯の花や」でよいと思う。 |
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◎卯の花をリュックに古道歩く会 希望
【評】深閑とする古道は、どこまでも清潔な卯の花の白に似合う。 |
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◎卯の花や符丁のごとき国ことば ムーミン
【評】外国人が増える昨今、その仲間だけに通用する会話を、作者はやさしい気持ちで眺めたのだろうか。 |
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○卯の花や晒し木綿を布巾にす 月子
【評】晒し木綿の布巾で作りながら、卯の花の白を連想したか。とすれば連想語として両者はやや近いかもしれない。 |
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○駒込の雨の富士塚花うつぎ ひぐらし
【評】卯の花には雨の富士塚がよく似合うという句。江戸期から盛んな富士塚信仰で東京にはたくさんの富士社が現存。この句の富士社は駒込駅から数分の距離にある。 |
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○自転車を停めて眺める花空木 ちちろ
【評】「眺める」を省略できればさらに余韻あり。 |
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○絵手紙は五十二円よ花うつぎ 和子
【評】「絵手紙は五十二円よ」という会話は新鮮。但し絵手紙の絵が「花うつぎ」とすれば、表現に今ひとつの工夫がほしくなる。 |
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ハミングと卯の花の渦信綱館 美雪
【評】信綱館だけではわかりにくいが、佐佐木信綱記念館か。但し感動の焦点と思われる「ハミングと卯の花の渦」は難解。 |
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卯の花や垣越し見ゆるテラス椅子 直久
【評】テラスの椅子に座れば、垣越しに卯の花が見えるという意であれば、残念ながら報告に終わっている。 |
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卯の花やあぜの籠には赤子居て 由美
【評】赤子と卯の花の取り合わせはよい。しかし、説明的な中七は要らないように思う。 |
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若葉かげ白きうの花軽やかに 喜代子
【評】景色の報告に終わっていて、物足りない。 |
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◎夏場所や初めて結ひし大銀杏 酢豚
【評】夏場所の勢いと、ようやく結えるようになった髷がよく似合う。 |
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○遠藤が初金星よ夏場所よ 憲
【評】率直で無駄のない表現が心地よい。「よ」の繰り返しも効果的。但し相撲は現在一月場所(〜十一月場所)のように全六場所となって、「金星」がいつの場所に似合いの言葉なのか判断するのは難しくなっている。この点これからどのように淘汰されるか。 |
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○夏場所や初々しき髷四股を踏み ひろし
【評】ようやく結える髷が夏のゆたかさに重なる情を持つとみて評価した。 |
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夏場所に何故かエデンの憂ひかな 瑛子
【評】評者に「エデンの憂ひ」を理解する力がない。教示を乞う。 |
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白妙の夕べむすびの五月場所 千年
【評】評者に「白妙の夕べ」を理解する力がない。教示を乞う。 |
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夏場所や息のむ勝負小さきまげ 山茶花
【評】これも関取遠藤の健闘を描写したか。「息のむ勝負」は素直だが説明的。 |
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張り詰めた判官びいきの五月場所 光江
【評】これも関取遠藤の健闘を描写したか。「張り詰めた」は素直だが説明的。 |
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夏場所や館内ゆるがす大金星 靖子
【評】これも関取遠藤の健闘を描写したか。「館内ゆるがす」は素直だが説明的。 |
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蒼国来晴れて勝ち越し五月場所 むらさき
【評】蒼国来は八百長問題で運、不運を体験したモンゴル出身の力士。「晴れて勝ち越し」に作者のこだわりを読めるが、報告に終わっている。 |
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