わくわく題詠鳩の会会報 38   ホーム
鳩ノ会会報38
兼題 野分・鳥兜・敬老の日
いとおしき子には旅をさせよといふことあり。
万事思ひ知るものは旅にまさることなし。
(了意・東海道名所記)
【野分・秋台風】野分のまたの日こそ、いみじうあはれにをかしけれ。立蔀・透垣などの乱れたるに前栽どもいと苦しげなり(枕草子)。
◎野分あと姿よき枝拾ひをり 中村  緑 懐かしき景情。
◎焚き付けを浜辺に拾ふ野分あと 吉田いろは 懐かしき景情。
◎目にかかる髪をはらひて野分行く 小出 富子 行かねばならぬことあるゆえ。
◎雲水の丸き眼鏡や野分雲 ひぐらし 禅僧雲に異ならず。
◎馬小屋の灯ともり野分雲 松村  實 馬を不安にさせぬように。
○端然と作務にしたがふ野分かな 堀口 希望 「端然と」とは美しき。
○里山の下生え崩し野分去る 中村美智子 「下萌え崩し」。
○野分雲公園墓地の閉門す 谷地元瑛子 一転して墓地は孤独に。
○濁流に阿修羅の棲みし野分け跡 木村千恵子 野分即ち阿修羅とみた。
○プランター二つ転がる野分晴れ 根本 文子 誰にも心当たりあり。
○阿夫利嶺の尖り際立つ野分晴れ 渡辺 壽子 誰にも心当たりあり。
○野分あと空に明るき日の流れ 梅田ひろし 誰にも心当たりあり。
○吹き溜る木の葉匂ふや野分あと 清水さち子 誰にも心当たりあり。
○野分あと野球部の声ひびきくる 西野 由美 誰にも心当たりあり。
 野分けして大杉折れる音ひゞく 礒部 和子 誰にも心当たりあり。
 夕野分格子稲田をなでて去る 椎名美知子 誰にも心当たりあり。
 野分して干せるシーツを吹き返し 三島 菊枝 誰にも心当たりあり。
 雲一天べうべう奔りをる野分 柴田  憲 誰にも心当たりあり。
 武蔵野に木の実を落す野分かな 天野喜代子 誰にも心当たりあり。
 さよならも愛も唐突野分かな 宮  沢子 技量が露出せり。
 一日を裏返したる野分かな 安居 正浩 技量が露出せり。
 野分月雲したがへて遊びたり 大江 月子 技量が露出せり。
 独り身に日はさんさんと野分けあと 五十嵐信代 よき主題だが要推敲。
 列島を敬遠されし野分殿 天野 さら 主題曖昧なり。
 野分立ち片耳ふさぎケイタイす 千葉ちちろ 主題曖昧なり。
 野分晴れ心の葛藤乗り越えて 三木 喜美 主題曖昧なり。
 行き合ひの空きつぱりと野分後 水野千寿子 主題曖昧なり。
 窓野分キルトの糸の切れがちに 櫻木 とみ 主題曖昧なり。
 減反の田畑の荒れや野分あと 金井  巧 主題曖昧なり。
 野分去る大丈夫ヨと母の声 尾崎喜美子 素直なれども。
 鳴く鳥の野分去つたと我に告げ 尾崎 弘三 素直なれども。
 野分晴源氏に逢へそな枳殻邸 谷  美雪 素直なれども。
 百日紅野分に舞ひて地面染め 平岡 佳子 素直なれども。
 盟友が野分のごとく逝きにけり 有村 南人 素直なれども。
 野分だつ都心屋上田んぼかな 市川 千年 場所は面白いが。
 野分後に今朝は2倍のウォーキング 岡田 光生 二倍のわけは何?
【鳥兜(頭・甲)】中国原産の薬用、切り花用の濃紫の花。有毒植物。形状能の冠物「鳥兜」に似る。
◎若き日の毒ある言葉鳥頭 金井  巧 効き目怪しき毒であったが。
◎紫は疑ひのいろ鳥頭 安居 正浩 それは誘惑の色でもあった。
◎とりかぶと毒はしみじみ濃紫 根本 文子 「しみじみ」で詩になった。
◎山親爺射止めた花よ鳥頭 礒部 和子 ヒグマも鳥頭好きとは…。
○鳥頭しつかと居場所をもつ私 清水さち子 取り合わせに存在感あり。
○純情をとほす闘ひ鳥頭 吉田いろは 上五・中七抽象的なれども。
○ふるさとの罪持ち帰る鳥兜 宮  沢子 上五・中七抽象的なれども
○廃鉱の山にさみしく鳥兜 千葉ちちろ 「さみしく」不要なり。
○朝富士の藍映しけり鳥兜 堀口 希望 よく似合うなり。
○熊避けの鈴音忙し鳥頭 ひぐらし よく似合うなり。
○稜線にはや日のいりて鳥兜 松村  實 よく似合うなり。
 秘するもの持ちて奇麗な鳥頭 小出 富子 素直なれども。
 近づいて言はれて分かる鳥頭 岡田 光生 素直なれども。
 紫の妖しき色や鳥頭の花 尾崎 弘三 素直なれども。
 紫の冠不気味鳥かぶと 平岡 佳子 素直なれども。
 魔性ひめる鮮やかな藍鳥頭 天野 さら 素直なれども。
 山あひの夕闇蒼し鳥頭 有村 南人 素直なれども。
 富士裾野紫の花鳥頭 天野喜代子 素直なれども。
 毒あれど紫清しかぶとばな 三島 菊枝 素直なれども。
 持ち帰りたくなる惑ひ鳥頭 市川 千年 素直なれども。
 トリカブト紫紺の花の清くあり 椎名美知子 素直なれども。
 鳥頭ときには狂つてみたきかな 梅田ひろし 素直なれども。
 鳥頭いよいよ幽き紫紺かな 柴田  憲 素直なれども。
 木漏れ日に紫怪し鳥頭 三木 喜美 素直なれども。
 熊狩るといふには清し鳥頭のはな 尾崎喜美子 主題曖昧なり。
 迷ひから覚めてありがと鳥頭 谷  美雪 主題曖昧なり。
 山の宿散歩のゲタの鳥頭 水野千寿子 主題曖昧なり。
 鳥兜黒装束にて烏どの 大江 月子 主題曖昧なり。
 鳥頭はづして鷹匠鷹の目に 櫻木 とみ 主題曖昧なり。
 夫往きぬ単身赴任とりかぶと 西野 由美 主題曖昧なり。
 鳥頭雨の粒ふと紫に 中村  緑 主題曖昧なり。
 霧の山紫うすき鳥かぶと 五十嵐信代 主題曖昧なり。
 とりかぶと初書きなれば愛憎を 谷地元瑛子 主題曖昧なり。
 鶏兜紫紺極めし峠道 木村千恵子 主題曖昧なり。
 鳥兜怨みの色を今もなほ 渡辺 壽子 主題曖昧なり。
 狂言の附子で名を売る鳥頭 中村美智子 狂言「附子」なしでは難解。
【敬老の日・老人の日・年寄の日】九月十五日(昭和四十一年開始の国民の祝日)。平成十五年からは九月第三月曜日。
◎家族みな敬老の日に集まりし 尾崎 弘三 これ正真正銘の名句なり。
◎賑やかに小豆炊きけり敬老日 五十嵐信代 「炊く声」。
◎新しきパジャマの母や敬老の日 尾崎喜美子 「敬老日」。
◎姑逝きて敬老の日がらんだう 椎名美知子 「敬老の日の」。
◎みどり子の眼の澄みて敬老日 松村  實 自画像ならん。
◎朝湯好きペンキ絵も好き敬老日 堀口 希望 自画像ならん。
○孫の背追つかけ暮れる敬老日 中村美智子 自画像ならん。
○幾霜や老人の日もあるが儘 柴田  憲 自画像ならん。
○ベレーでも被つて行くか敬老日 梅田ひろし 自画像ならん。
○敬老の日の賑はひにとけ込めず 金井  巧 自画像ならん。
○敬老日知らんぷりしてやり過す 水野千寿子 自画像ならん。
○母逝きて敬老の日が見つからず 根本 文子 実情ならん。
○黒髪の後ろめたさや敬老日 宮  沢子 実情ならん。
○母生きてゐるだけで希望敬老日 有村 南人 実情ならん。
○敬老の日市よりルーペが届きけり 礒部 和子 哀れと滑稽とあり。
○敬老と浮かれず語れ戦争を 平岡 佳子 哀れと滑稽とあり。
○年寄りが席譲り合ふ敬老日 ひぐらし 哀れと滑稽とあり。
○敬老といふも翁の無頓着 清水さち子 哀れと滑稽とあり。
○二千万越えし老人敬老の日 天野喜代子 哀れと滑稽とあり。
○敬老日我も名簿に名を連ね 三島 菊枝 哀れと滑稽とあり。
○祝別のひたい拭き合い敬老日 谷地元瑛子 敬老ミサにおける祝福のさま。
○敬老日父母に供へんお赤飯 木村千恵子 「供へる」。
○敬老を見舞ふ娘とウォーキング 岡田 光生 「敬老の客の」。
 まだ先と思ひ続けん敬老の日 天野 さら 素直なれども。
 支えるも支えらるるも敬老の日 三木 喜美 素直なれども。
 今日ありておのれに讃す敬老日 大江 月子 「讃す」再考。
 敬老日指定し小包わびしさも 櫻木 とみ 哀し。
 飯こぼし愚痴こぼされる敬老日 千葉ちちろ 汚し。
 江戸小紋紗の羽織召し敬老日 西野 由美 主題曖昧なり。
 門毎に芙蓉の花や敬老日 吉田いろは 主題曖昧なり。
 敬老日孫の写真のあかんべい 安居 正浩 主題曖昧なり。
 そつと来て敬老の日に手鏡を 小出 富子 主題曖昧なり。
 敬老の日ひよつとこみたいな絵が届く 谷  美雪 主題曖昧なり。
 敬老の日や仙人の日もあらむ 市川 千年 主題曖昧なり。
 敬老日杖つく母のやゝ早し 中村  緑 主題曖昧なり。
 敬老日話それぞれ父と母 渡辺 壽子 主題曖昧なり。
海紅切絵図
電線に野分の音のとりすがる 海 紅
鳥甲長女ばかりを厳しうす
敬老の日のなき歳時記を愛す
 
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