わくわく題詠鳩の会会報 36   ホーム
鳩ノ会会報36
兼題 桜貝・矢車・卯の花腐し
てにはは公界(くがい)ものなり。
(幽斎述、烏丸光広記・耳底記)
【桜貝】今はニッコウガイ科の二枚貝をいうが、和歌連歌俳諧の時代は定説なし。桜の季節、あるいは桜の散り敷く季節の貝類の美しさを賞美して言った可能性が高い。「伊勢の海の玉よる波のさくら貝かひある浦の春の色かな」(定家・拾遺愚草)。
◎桜貝母にあづけて砂浜へ 金井  巧 「また海へ」。
◎桜貝螺鈿細工に二三枚 礒部 和子 おとなしく、かつ深し。
◎武骨なる手に渡されし桜貝 安居 正浩 美しき取り合わせかな。
◎櫻貝染めて大きな瀬戸入り日 市川 千年 美しき取り合わせかな。
◎青春の浜辺のひと日桜貝 水野千寿子 実情なれば残すべし。
○引き出しの奥遠き日の桜貝 ひぐらし 実情なれば残すべし。
○久々のマニキュア嬉し桜貝 小出 富子 実情なれば残すべし。
○ヴィーナスの生れ変りか桜貝 梅田ひろし 大げさなど面白し。
 葉山海岸詩心を拾ふ桜貝 根本 文子 「詩心を拾ふ」再考。
 えぼし岩君と見つける桜貝 岡田 光生 絃にゆるみのあるごとし。
 「色の浜」想ひてさくら貝拾ふ 三木 喜美 絃にゆるみのあるごとし。
桜貝小箱の奥に子の嫁ぐ 清水さち子 絃にゆるみのあるごとし。
桜貝遠浅の汀一人あり 椎名美知子 絃にゆるみのあるごとし。
少女の日思ひ出ほのか桜貝 堀 眞智子 絃にゆるみのあるごとし。
桜貝探し探して磯の鼻 尾崎喜美子 絃にゆるみのあるごとし。
桜貝もらひし人も遠くなり 米田かずみ 絃にゆるみのあるごとし。
桜貝亡き子と聞きし波の音 中村  緑 絃にゆるみのあるごとし。
砂にぬれ桜貝載す少女の掌 西野 由美 絃にゆるみのあるごとし。
青春のもろさいとしき櫻貝 天野 さら 絃にゆるみのあるごとし。
桜貝妻も拾ひぬ千里浜 大原 芳村 絃にゆるみのあるごとし。
花貝のその艶めきや願がまほし 柴田  憲 「願はまほし」
指先につまめばくづる桜貝 天野喜代子 「くづれ」。
桜貝重ねば潮の鳴るやうな 吉田いろは 「重ぬれば」。
逝きし母の手筥にさくら貝ひとつ 堀口 希望 「亡き母の」。
マニュキアの桜貝色さがす午後 織田 嘉子 「午後」再考。
遠浅の光一点桜貝 三島 菊枝 「光一点」再考。
桜貝記憶小箱に沈みをり 大江 月子 「沈みゐる」再考。
桜貝舐めても溶けぬ桜色 五十嵐信代 「舐めても」捨つべし。
鏡台に密やか割れし桜貝 中村美智子 「密やか」捨つべし。
桜貝比べて触れしときめきつ 櫻木 とみ 「触れし」ものは何か。
巧みに作れた桜貝の指輪 竹内 林書 「桜貝の指輪作りて満足す」。
みいつけたここにも一つ桜貝 有村 南人 桜貝の本意を学ぶべし。
  潮風に黒髪梳かす桜貝 谷  美雪 桜貝の句になっていない。
桜貝波のリズムで踊りをり 尾崎 弘三 説明に終わった。
力いれし幼き字と来桜貝 松村  實 読み解けず、残念。
【矢車】五月の節句で、幟の竿先につける風車。幟の流行に従って、近世期から見える季題。本来神への捧げものと思われる。
◎矢車をカラス鳴らして飛び立ちぬ 尾崎喜美子 中七リアルなり。
◎音たてて回れ矢車嬉しき日 織田 嘉子 「嬉しき日」が素朴で可。
◎矢車のまはり過ぎたる疲れあり 安居 正浩 「あり」再考。
◎矢車の幸せさうな音の鳴る 梅田ひろし 作者が仕合わせなのであろう。
◎矢車の回りて万端整へり 清水さち子 「回り万端調へる」。
○矢車の如何にも元気音かたち 堀 眞智子 「かたち」捨つべし。
○矢車の音に朝餉の四世代 堀口 希望 「音や」。
○矢車の夜風に遊ぶ音しづか 三木 喜美 「しづか」再考。
○雨の来て矢車ばかり残りけり 吉田いろは 「雨の来て」再考。
 カラカラと回る矢車風の詩 尾崎 弘三 「風の詩」再考。
 矢車や丸き双子の深眠り 大原 芳村 「丸き」再考。
 矢車の禁じられたる平家村 根本 文子 理屈を超えたし。
 田中の家矢車だけの動きあり 椎名美知子 絃にゆるみのあるごとし。
 矢車や二歳の坊や大人びて 水野千寿子 絃にゆるみのあるごとし。
 矢車を見上げる僕の父と祖父 岡田 光生 絃にゆるみのあるごとし。
 カラカラカラ回る矢車綱を引け 谷  美雪 絃にゆるみのあるごとし。
 矢車の天にも届け風の里 ひぐらし 絃にゆるみのあるごとし。
 矢車は尾ひれを上げて利根の川 米田かずみ 「尾ひれを上げて」捨つべし。
 ふと見上ぐミニ矢車らニュータウン 柴田  憲 「ふと見上ぐ」捨つべし。
 矢車の音風に乗りくもに上り 天野 さら 「くもに上り」捨つべし。
 矢車の音に目覚めて風いれる 中村  緑 「風いれる」捨つべし。
 矢車がうねる幟と浮かれたつ 西野 由美 「幟」捨つべし。
 矢車の残りて夕日に染まり舞ふ 櫻木 とみ 「舞ふ」捨つべし。
 大空を矢車きらきら遊びけり 小出 富子 「遊びけり」捨つべし。
 尋ね物天袋の矢車錆びてあり 中村美智子 「尋ね物」捨つべし。
 矢車や少年白球揚げんとす 大江 月子 「少年」捨つべし。
 矢車の音にはためく幟かな 天野喜代子 「幟」捨つべし。
 矢車は縁なきものか姫ぞろひ 礒部 和子 矢車の題意を逸れた。
 数本つなげ川を渡りの鯉のほり 竹内 林書 「何本も川を渡して」。
 矢車を放ち一列鯉の谷 五十嵐信代 すべてを言わずともよし。
 矢車のカラリからりと語る夜 有村 南人 矢車の本意を学ぶべし。
 矢車や飛んでみやうと跳んでみし 市川 千年 中七・下五の心届かず。
 矢車や水子地蔵の寺に鳴る 金井  巧 美的想化不足なり。
 生れしは男の児矢車音の豪き 三島 菊枝 「生まれたる男児」。
 矢車のきらりと下に故国かな 松村  實 「故国かな」難解。
【卯の花腐し】卯の花月という陰暦四月のころの雨。卯の花を腐らせるのではないかと思わせる雨で、梅雨近しの感がある。上代以来の歌語で季題。
◎二人ゐてしづかに卯の花腐しかな 梅田ひろし 「に」捨つべし。
◎古傷の痛みて卯の花腐しかな 尾崎喜美子 「て」捨つべし。
◎和紙などを折りて卯の花腐しの日 三木 喜美 「卯の花腐しかな」。
○一日を籠る卯の花腐しかな 大原 芳村 古風なれど。
○将門の小塚卯の花腐しかな ひぐらし 古風なれど。
○卯の花腐し落語全集にも飽いて 堀口 希望 古風なれど。
○久々に手紙卯の花腐しかな 堀 眞智子 「久々の」。
○廃坑の卯の花腐し音もなく 松村  實 「音もなく」捨つべし。
○酔ひ覚めの卯の花腐し心地よし 市川 千年 「心地よし」捨つべし。
○卯の花腐し心鎮めて墨を摺る 天野 さら 「卯の花腐し」下五に。
○長堤に卯の花腐し降り止まず 三島 菊枝 「降り止まず」再考。
 村激震卯の花腐しの頃のこと 大江 月子 「村激震」再考。
 真夜中に燐光放つ卯の花腐し 中村美智子 「燐光放つ」再考。
 病床の卯の花腐しショパンかな 五十嵐信代 「ショパン」とは欲深し。
 遺愛の庭卯の花腐しが育てをり 根本 文子 理屈を超えたし。
 源氏千年卯の花腐し読書なり 水野千寿子 「読書なり」捨つべし。
 尋ね来し卯の花腐しの留居の門 櫻木 とみ 「尋ね来し」捨つべし。
 卯の花腐し何もせで燗つける 柴田  憲 「何もせで」捨つべし。
 仕事なく卯の花腐し一人酒 礒部 和子 「仕事なく」捨つべし。
 行く舟や卯の花腐しけぶるなか 尾崎 弘三 「けぶるなか」捨つべし。
  隣垣の卯の花腐しきのふけふ 竹内 林書 「きのふけふ」捨つべし。
 一病は息災卯の花腐しかな 安居 正浩 取り合わせ効果量り難し。
 卯の花腐し印刷室のほの明り 吉田いろは 作者の位置定かならず。
 卯の花腐し駄菓子屋に子らのかげ 西野 由美 「…の外の卯の花腐しかな」。
 秩父路は卯の花腐しワイパー上げ 米田かずみ 「ワイパーを速め…」。
 卯の花の腐し窓辺へ古日記 清水さち子 「古日記出して卯の花腐し…」。
 物憂げに猫卯の花腐しかな 中村  緑 「物憂げな猫に」。
 傘の波卯の花腐し寄せるなり 小出 富子 「寄せる」ものは何か。
 大気みな卯の花腐し甦る 天野喜代子 「甦る」ものは何か。
 すがすがし卯の花腐し過ぎし空 織田 嘉子 「卯の花腐し」に限るまい。
 遅い朝卯の花くだしやさしけり 椎名美知子 絃にゆるみのあるごとし。
 水槽の卯の花腐し稚魚減りぬ 岡田 光生 絃にゆるみのあるごとし。
 災害の土地に卯の花腐しかな 金井  巧 美的想化不足なり。
 悪女美女卯の花腐し品定め 谷  美雪 読み解けず、残念。
海紅切絵図
桜貝海を知らざる母なりき  海 紅
矢車のくるくる廻る三回忌
泣き虫は家に卯の花腐しかな
 
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