わくわく題詠鳩の会会報 35   ホーム
鳩ノ会会報35
兼題 早春・涅槃・農具市
詞にて心を詠まむとすると、心のままに詞のにほひゆくとは、
変はれるところあるにこそ。
(為兼・為兼卿和歌抄)
【早春】初春。立春から二月末日ころまで。浅春の情と重なり合う。いずれも明治以降の季題。
◎早春の子の履き出づる親の靴 大原 芳村 暮らしのまことが見ゆ。
◎早春の波を掴みて手漕ぎの艪 梅田ひろし 描写の手本。「手漕ぎ」佳品。
◎確定申告を終えて早春旅支度 礒部 和子 字余りを気にせずともよい。
○早春の野へとペダルを夜勤あけ 松村  實 こういう一こまはある。
○早春の風と光と新妻と 谷  美雪 美しすぎるけれど。
○早春の雲うつすらとほぐれだす 根本 文子 「うつすらと」捨てるか。
○早春の山神いまだ夢の中 天野 さら 目覚めを詠めばなおよき。
○早春の筑波の峯はやはらかし 尾崎喜美子 あたりまえに言うも腕前。
○早春賦口ずさみつつペダル踏む 三木 喜美 平明だが確かな景色。
○早春やのろのろのろと庭仕事 園田 靖子 中七くどいが実感あり。
○早春の湖面ひかりのバレー団 金井  巧 「早春」の必然性疑問。
○早春の日に透く鳥の羽真白 三島 菊枝 「早春」の必然性疑問。
○早春の息吹小さき芽のありて 小出 富子 「早春」の必然性疑問。
 早春や草点々と名は知らず 柴田  憲 「早春」の必然性疑問。
 早春やけさ産まれたとメールあり 西野 由美 「早春」の必然性疑問。
 早春の鼻息荒き炊飯器 安居 正浩 「早春」の必然性疑問。
 早春や並ぶグラスに海の色 吉田いろは 「早春」の必然性疑問。
 早春の階段にゐる似顔絵師 市川 千年 「早春」の必然性疑問。
 早春の出で湯の烟朝の雨 五十嵐信代 「早春」の必然性疑問。
 早春や三寒四温身にしみる 石川三千代 「早春」の必然性疑問。
 早春や和紙の如くの雲描く 中村  緑 描くのは誰か。
 早春の布染め流し少女素手 櫻木 とみ 「少女素手」固し。
 早春を姿で伝へる雲の色 尾崎 弘三 言いたきは姿か色か。
 早春に小さきつぼみ見つけたり 織田 嘉子 「早春」か「つぼみ」にしぼる。
 早春の堰に小鮒の抗へり ひぐらし 「抗へり」は凝りすぎとも。
 早春にめだかの目覚めを待つ河原 中村美智子 「河原」まで言わずともよし。
 梅林の茶屋の甘酒春浅し 天野喜代子 「梅林」はいらないね。
 早春や群れより離るセーラー服 後藤 祥子 なにゆえ離るるや。
  修二会    
 早春の僧松明に華やげり 水野千寿子 「華やぐ」難解。
 早春の動く気配のエネルギー 岡田 光生 「エネルギー」難解。
 春淡しうしろすがたの飛行船 大江 月子 「うしろすがた」難解。
 早春の野良広き遠景摂れり 竹内 林書 「摂れり」難解。
【涅槃】涅槃会。涅槃寺。寝釈迦。釈尊入滅の日(陰暦二月十五日)に報恩のために行われる法会。涅槃西風は彼岸前後の風で天象ゆえ涅槃(宗教)とは分けたい。連歌のころからの季の詞。
◎尼去つて川音近き涅槃軸 櫻木 とみ 涅槃会の後なり。
○涅槃図のやうにかこみて棺の母 根本 文子 「囲まれ」か。
○子らのこゑ外に明るし涅槃像 松村  實 涅槃像のうつりあり。
○静寂の中に吾ゐて涅槃像 三木 喜美 涅槃像のうつりあり。
○涅槃図の涙見るためにじり寄る 安居 正浩 「にじり寄る」饒舌。
○涅槃会やトレイに並ぶパンダパン 大江 月子 下五冒険なれど。
○涅槃図の傍へに吾も加へてむ 三島 菊枝 「加はらん」。
○涅槃会や素直な良い子になりまする 谷  美雪 集える子らならん。
 このしみは誰の涙ぞ涅槃絵図 金井  巧 古し。
 涅槃会や一瞬高き僧の声 小出 富子 古し。
 説教僧朱扇指しゐる涅槃絵 柴田  憲 古し。
 正座せる身を固くして涅槃絵図 梅田ひろし 上五中七描きすぎたり。
 涅槃図に動かぬ人の肩の揺れ 尾崎喜美子 中七下五難解。
 今日涅槃会正座して経を写す 竹内 林書 「今日」不要なり。
 ねはん図を話し園児に菓子くばる 西野 由美 「園児」不要なり。
 涅槃会の問ひかけしもの薄明かり 水野千寿子 「薄明かり」難解。
 細き眼に慈悲があふれる涅槃像 織田 嘉子 「細き眼は慈悲の心よ」。
 ものわすれぐちひとりごと涅槃西風 ひぐらし 悲しすぎる也。
 回廊を影も歩みぬ涅槃寺 大原 芳村 中七の効力疑問。
 涅槃の日うい子生れし文届く 後藤 祥子 涅槃の必然性疑問。
 回し珠数涅槃図囲み音はねる 天野喜代子 数珠くりのことか。
 涅槃図のささやきかける堂の内 尾崎 弘三 誰がささやくや。
 香煙沁み袈裟も朧の涅槃会 中村美智子 説明に終わった。
 仰向けに巨象も嘆く涅槃の図 市川 千年 説明に終わった。
 白象が涅槃の尊師に寄り添いぬ 五十嵐信代 説明に終わった。
 涅槃図の動物たちも泣いてゐる 天野 さら 説明に終わった。
 涅槃図や病む身穏やか合掌す 中村  緑 説明に終わった。
 福祉日々涅槃の境地まず一歩 石川三千代 涅槃の本意を逸れる。
 一周忌に集まる人の涅槃かな 岡田 光生 涅槃の本意を逸れる。
 六十で逝く人送る涅槃かな 吉田いろは 涅槃の本意を逸れる。
 涅槃会や老いという語の重たさよ 礒部 和子 涅槃の本意を逸れる。
 涅槃西風体調いかがの電話あり 園田 靖子 涅槃の本意を逸れる。
【農具市】春秋にあるが、春が盛んだった。時代の推移で変化するが、種物・植木・農具が主だが、農家の必要なあらゆる家庭用具が並んだ。近代以降の季題。
◎真つ新な大臼でんと農具市 梅田ひろし 「まつさら」で詩の姿に。
◎産直の売場にちょこつと農具市 中村美智子 「ちよこつと」で詩の姿に。
○陸奥に幟たなびく農具市 市川 千年 「陸奥」の趣向褒貶あるか。
○農具市まずはぐるりと一回り 天野 さら あたりまえを叙して情あり。
○農具市今年の夢をととのえる 西野 由美 「ととのへる」は稚拙だが。
○鎌買うて何やら楽し農具市 吉田いろは あたりまえを叙して情あり。
○刃こばれの鎌を持参で農具市 礒部 和子 あたりまえを叙して情あり。
○居眠りも店番のうち農具市 三木 喜美 かかる景もあるべし。
○荒縄で鎌束ねあり農具市 大江 月子 かかる景もあるべし。
 箕を探し祖母と疲れし農具市 根本 文子 かかる景もあるべし。
 農具市トラクターは欲しけれど 大原 芳村 かかる景もあるべし。
 農具市野菜つき出す売り手かな 中村  緑 かかる景もあるべし。
 農具市妻丹念に品定め 金井  巧 かかる景もあるべし。
 光るものみな光らせて農具市 安居 正浩 かかる景もあるべし。
 動力機すみつこに鍬など農具市 柴田  憲 かかる景もあるべし。
 跡取りを願ひつれきし農具市 櫻木 とみ かかる景もあるべし。
 作柄も話題となりて農具市 織田 嘉子 かかる景もあるべし。
 農具市やつと見つけた大熊手 谷  美雪 かかる景もあるべし。
 農具市見知らぬ人に教へ乞ふ 後藤 祥子 かかる景もあるべし。
 野良仕事そのままにして農具市 岡田 光生 中七再考。
 退職し栄光さらば農具市 石川三千代 中七再考。
 鋤鍬のまばらなりける農具市 三島 菊枝 中七再考。
 農具市話はずみし男ども 松村  實 描写の輪郭弱し。
 農具市幼き頃の納屋の中 尾崎喜美子 「幼きころの懐しき」でよい。
 なに作る迷ひ迷ひて農具市 尾崎 弘三 作る迷いは農具とは別なり。
 農具市の鋤でネギ植える 竹内 林書 「農具市に得たる鋤なり」。
 おばあの背負籠新らし農具市 五十嵐信代 人物の輪郭がよく見えず。
 髭面も脂歯も笑ふ農具市 ひぐらし 「脂歯」を知らず。乞教示。
 ためらいのセカンドステージ農具市 水野千寿子 転職、退職後の景か。
 ほめられし花壇を鍬で耕しぬ 園田 靖子 農具市の本意を逸れる。
 農具市鎮守の杜のいじめつこ 小出 富子 農具市の本意を逸れる。
 農具市幻となり輸入国 天野喜代子 事実誤認なるらん。
海紅切絵図
塵ひとつある早春の廊下かな 海 紅
西行に一瞬見ゆる寝釈迦かな
大梯子残して農具市終る 
 
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