鳩の会の会報 28   ホーム
鳩ノ会会報29
兼題 旧正(月)・高菜・流氷
名は何と言ひけむ。
姓は鈴木なりき。
今はどうして何処にゐるらむ。
(石川啄木・悲しき玩具)
【旧 正】 旧暦(太陰太陽暦)の正月。潮の干満や農事暦との関わりで新暦二月に正月を祝う。明治以後。
◎旧正やビル風めくる捨雑誌 松村  實 近代化が捨てたものを直叙。
◎旧正や李白の国の酒に酔ひ 堀口 希望 ほどよき切れ、心地よし。
◎旧正や姉妹の集ふ妻の郷 金井  巧 この日は若き日に戻りて。
◎旧正と聞けばなんだか休みたし 西野 由美 呟きに近き実情。
◎旧正の着物の母の美しき 清水さち子 「旧正や」。
◎旧正月昨日の豆が厨にも 礒部 和子 「旧正や」。
◎旧正月人の肩より竜の舞 櫻木 とみ 「旧正や」。
○春節や関帝参りの渦中に 谷  美雪 無理なき取り合わせなり。
○学友と再会約す旧正月 水野千寿子 旧正は女の外出によき頃にて。
○旧正や半襟の白掛けなほし 小出 富子 「半襟の白」が旧正に似合う。
○旧正の龍練り歩く中華街 梅田ひろし 切れが不足と思う。
○どの路地も春節にわく中華街 園田 靖子 切れが不足と思う。
○春節と聞けば涙す異国妻 菅原 宏通 「と聞けば」甘し。
○旧正や無事退院の知らせあり 堀眞 智子 この後は春たけなわなり。
○旧正を過ぎて友の喪が明けり 岡田 光生 「旧正が過ぎ友の喪が明けにけり」
○大気やや膨らむ気配旧正月 天野 さら 名実共に春ゆえに。
○旧正月祝ふ餅つき今は無く 平岡 佳子 懐古の多き作者なれど。
○春節の賑々しさや天を突く 尾崎喜美子 「賑々しさ」を具象化したい。
○野良仕事旧正月に始まりし 尾崎 弘三 その通りゆえの不思議な味。
 旧正月捜して歩く竈神 根本 文子 主述が不明瞭にて。
 願かけの写経の灰舞ふ小正月 青柳 光江 「灰や小正月」。
 旧正の爆竹ほどは浮き立たず 安居 正浩 傍題。季題の本意に沿いたし。
 旧正を祝ふ爆竹港街 三木 喜美 爆竹で切るべし。港町捨つべし。
 旧正月マスク醜く掛けてをり 大江 月子 細叙して趣向を失う勿れ。
 旧正や縁のにぎはひ高まれる 三島 菊枝 「縁のにぎはひ」明瞭ならず。
 旧正の遺族の家の祖母の家事 市川 浩司 細叙して趣向を失う勿れ。
 春節や用意の数でまにあはず 吉田いろは 「用意の数」難解なり。
 二十一世紀旧正月も遠くなり 天野喜代子 こう思った、その先を詠もう。
 旧正月母に会へたり夢の中 有村 南人 「旧正の」「逢ひたる」。
 来し方や滿ことなき旧正月 竹内 林書 難解。来し方を悔いる心か。
【高 菜】 関東で言う芥菜の一種。西日本に多く、芥菜より大葉で辛みが少ない。江戸初期には季題。
◎河川敷高菜畑の威勢よく 水野千寿子 「河川敷」面白し。
◎契約の畑に高菜も青々と 吉田いろは 「契約の畑」で余情深し。
◎旅先の高菜の丈に驚きぬ 堀 眞智子 「旅先」で詩になった。
◎休日の高菜炒飯定番に 三木 喜美 あはれも深し。
◎祖母あれば菜でくるむにぎり飯 礒部 和子 余情深し。
○八百屋開店笊はみだしている高菜 根本 文子 「開店の」。「八百屋」要らぬか。
○高菜漬もう一椀の茶漬飯 大江 月子 「高菜出て」。
○研ぎなおす包丁の音高菜漬 櫻木 とみ 取り合わせよし。
○みはるかす芥子菜競ふ土手の道 尾崎喜美子 「みはるかす」要らぬか。
○括られて干されし高菜風しずか 小出 富子 「干されて」。
○故郷は遥か高菜の握り飯 安居 正浩 郷愁を詠むは難しき。
○朝ごはん高菜に妻の香りある 岡田 光生 「香り」は再考か。
○高菜洗ふ白きかひなを耀かせ 堀口 希望 「耀かせ」は再考か。
 高菜飯いつも添へ物まづビール 市川 浩司 傍題。ビールの句になった。
 高菜にぎり里みる峠のやすら風 松村  實 「峠のやすら風」誤記か。
 御菜洗ひ初挑戦の高菜漬 谷  美雪 「御菜洗ひ」要らぬか。
 到来の自家漬高菜乙な味 天野 さら 細叙して趣向を失う勿れ。
 辿り来て高菜のうまき鄙の宿 金井  巧 「鄙」の一語が抒情を弱めた。
 トーストに水菜のサラダ朝仕事 園田 靖子 高菜と水菜は別なり。
 漬物に最適高菜ピリからし 天野喜代子 説明に終わった。
 漬け高菜父から届く旅土産 清水さち子 説明に終わった。
 高菜食む陽だまりの味からき味 尾崎 弘三 説明に終わった。
 例年よりも薄塩にして高菜漬 竹内 林書 「薄塩にせん」と切ろうか。
 信州の日に輝ける高菜畑 梅田ひろし 景色に終わった。
 高菜漬け豊かな暮らしの祖母逝きし 平岡 佳子 「逝きし」は不要。
 旅にして高菜にほへる目張寿司 三島 菊枝 説明に終わった。
 にぎり飯たか菜で巻いて山仕事 西野 由美 説明に終わった。
 高菜漬何はなくとも祖母が出す 菅原 宏通 説明に終わった。
 高菜めし母の温もりかみしめる 青柳 光江 説明に終わった。
【流 氷】 一月中旬シベリアからオホーツクに。三月下旬ひび割れて沖へ。近代以後の題。
◎流氷のひしめきあうも寂しげな 小出 富子 心象なり。
◎流氷の頑固親父のやうに来る 安居 正浩 をかし。
◎流氷の字大きくかきて旅誘い 竹内 林書 「流氷と大きく書いて旅心」。
○島活気流氷くづし船尖り 青柳 光江 「島活気」が面白し。
○流氷をグラスに浮かべ酔心地 礒部 和子 「酔心地」再考か。
○流氷期そつけなく切れし子の電話 園田 靖子 「流氷や電話のそつけなき会話」。
○流氷や八方ふさがる我が身なり 清水さち子 「わが身なり」を捨てたい。
○流氷の人恋初めし時きたる 天野 さら 「時来たる」褒貶あるべし。
○海豹に国境は無し流氷期 市川 浩司 穏当な取り合わせ。
 朝日して影あちこちに流氷野 松村  實 「影あちこち」描写弱し。
 流氷の響動めく町の友のこと 根本 文子 「友のこと」言葉足らずや
 新婚の朝や流氷接岸す 吉田いろは 新しき本意への挑戦か。
 流氷追ひ紋別空港到着す 谷  美雪 これ以後の感動を期待す。
 音頭取り流氷接岸に乾杯 水野千寿子 「音頭取り」読者に届かず。
 流氷の姿変へつつ温暖化 岡田 光生 「温暖化」再考したい。
 流氷の重き響きで知る厚さ 三木 喜美 説明に終わった。
 流氷の泣くを聞きゐる夜半の宿 堀口 希望 抒情に流れ過ぎとも。
 流氷を見られず返す観光船 大江 月子 傍題。流氷の本意を逸れた。
 流氷の無の世界何故人を呼ぶ 平岡 佳子 「無の世界」抽象的にて。
 流氷を見に行くといふ祖母連れて 金井  巧 主述再考したい。
 流氷の近づく海に魚船出ず 櫻木 とみ 「出ず」では詩の緊張感なし。
 流氷の来たらず索漠たりし空 梅田ひろし 傍題。流氷の本意を逸れた。
 けものめき流氷群襲ひ来る 三島 菊枝 「流氷群の」。
 流氷を見に行く少年しけん終え 西野 由美 「しけん終え」再考。
 流氷やかの君は今朝みまかりて 有村 南人 抒情に流れた。
 流氷や母の思ひを知る歳に 堀 眞智子 「思ひ」では描写不足。
 流氷は北極からの贈りもの 天野喜代子 説明に終わった。
 流氷の音立て少し動きけり 尾崎喜美子 説明に終わった。
 海鳥の鳴きて流氷沖に去り 尾崎 弘三 説明に終わった。
 流氷やここは網走旅路(たび)の果 菅原 宏通 説明に終わった。
海紅切絵図
瑞垣も旧正月も残しあり 海 紅
高菜入りラーメンが好き注文す
流氷に食後らしきが四五羽見ゆ
 
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