鳩の会の会報 28   ホーム
鳩ノ会会報28
兼題 狩人・初夢・薪能
山ねむる山のふもとに海ねむるかなしき春の国を旅ゆく
(若山牧水・別離)
【狩 人】古来、猟を職業とする人。但し食うために百姓や鵜飼などを兼ねた。サツオ・マタギ(マトギ)・ヤマダチという語も失うまい。神々を祀る神聖さを心とする。
○交番に狩人も置く町となり 清水さち子 「町とかや」「町を過ぐ」などと緊張感を。
○おのが生賭けた狩人なら許す 安居 正浩 「許す」に籠められた優しさが漂う。
○山間に狩人の星ひかりをり 西野 由美 徒事なれど、こうしたデッサンが基礎。
○風に耳そばだて狩人身じろがず 梅田ひろし 「そばだて」「身じろがず」の心近し。
○熊狩の話聴き入る峡の宿 吉田 久子 「峡の宿」が安易。少し離れよ。
○猟師なり子犬を貰ひて帰りたり 大江 月子 「なり」「たり」喧しいので「猟師来て」。
○狩人の足跡残る獣道 織田 嘉子 「残る」で徒事になってはいるが…。
 捧げ物得て狩人の得意なり 水野千寿子 捧げものを具体的に描きたい。
 狩人の銃口に手をあはす猿 市川 浩司 「に」で散文になってしまった。
 煙管うち語り始めし猟夫かな 松村  實 語る中身を、もっと描写を。
 狩人も猟犬の目で森を見る 根本 文子 「で」で散文化した。なお「猟犬」も季題。
 大猪射とめて狩人腰立たず 谷  美雪 状況報告ではなく、もっと描写を。
 狩人の妻の嘆きを聞かされる 小出 富子 嘆きを具体的に描きたい。
 町の衆畑を荒らす熊狩か 岡田 光生 傍観的な説明になってしまった。
 狩人の姿雄雄しき衣装まで 三木 喜美 衣装の一部でもクローズアップしたい。
 狩人に就く甲斐犬の猛りやう 堀口 希望 「の」で散文化。「甲斐犬」季感あり、注意。
 乾坤を覚ます一発狩人の銃 濱田 惟代 もう少し発見がほしい。
 吹雪く山狩人と犬呑みこんで 千葉ちちろ 「く山」「と犬」を捨てよう。
 狩人も猪突猛進賞讃を 平岡 佳子 意味不明なり。
 お守りを着けし猟師の無口なる 金井  巧 「お守り」「無口」近し。
 狩人の腕のためさる冬の里 天野喜代子 徒事、つまりあたりまえに終わっている。
 深雪晴かんじきつけて猟夫立つ 礒部 和子 「深雪晴」「かんじき」も季題。
 狩人に追はれ猪街走る 櫻木 とみ 報告に終わっている。
 狩人一人鏡の如き水辺ゆく 椎名美知子 「鏡の如き」の狙い不明。
 狩人は山の霊気をひとりじめ 尾崎喜美子 報告に終わっている。
 狩人の銛持ち立ちしかじき漁 尾崎 弘三 報告に終わっている。
 狩をえて猟犬の耳解かれをり 中村  緑 「耳解かれおり」難解。
 狩人の槍声ひびき山揺れる 竹内 林書 「山揺れる」は虚なり。
 校庭の猪仕留めたる遊猟家 園田 靖子 「遊猟家」が安易。少し離れよ。
 狩人の動ぜぬ影が木立見ゆ 中村美智子 「木立見ゆ」の意図不明。捨てるべきか。
 消防士猟夫となりて猪を追ふ 三島 菊枝 「消防士今日は猟師として山に」。
 狩人も鹿も悲しきアスファルト 内藤 邦雄 主題がアスファルトになってしまった。
 木の上の子熊捕獲して狩人 市川美代子 優しき情あれど、音数合わず。
 布地もつ裁断の手は服狩人 米田 主美 「服狩人」の意味不明。
【初 夢】新春に吉凶を占う心。姫始の文化史を背負う古代以来の言葉。
◎初夢は若き日の声ハイヒール 礒部 和子 「ハイヒール」で詩となれり。
◎初夢やタンゴで踊るラ・パロマ 谷  美雪 めでたし。説明を要すまい。
◎初夢やジャックと豆の木に登る 吉田 久子 ジャックと知り合いとはうらやまし。
◎この齢で欲あまたある獏枕 安居 正浩 おおかたの同感疑いなし。
○初夢をこなごなにせし救急車 金井  巧 正月早々近所に病人がでた。
○よきめざめ初夢なくも吉とせり 天野喜代子 「よき目覚め以て初夢吉とせん」。
○初夢や何事もなき薄明かり 尾崎喜美子 無事はよきことなり。
○初夢のめざめしときはおぼろなり 尾崎 弘三 言われてみれば確かにそうだ。
○初夢やエーゲ海での二人旅 米田 主美 「での」再考したし。
○初夢に三十路のわれが子供らと 濱田 惟代 仕合わせなりしころ。実情なるべし。
○初夢に子供と住まふ間取りかな 岡田 光生 二世帯が見直される昨今、ぜひ実現を。
 初夢や父母も誘はれ一座なす 市川 浩司 父母健在や否やで、表現不安定。
 初夢の晴朗なれど波高し 松村  實 常套句は観念的になりがち。
 折る願ひ児の初夢に帆掛け舟 根本 文子 「祈る」「願ひ」「児の」が分裂気味で不安定。
 初夢に賭けてはみたがすれ違い 水野千寿子 散文になってしまった。
 初夢や友と旅行で上機嫌 小出 富子 説明になってしまった。
 来客の去りてひと息初夢や 三木 喜美 末尾の「や」は不安定ゆえ避けたい。
  紺碧の空に初夢吸はれけり 堀口 希望 観念的で、思い入れが伝わらない。
 とびきりの笑顔が見たい初夢に 織田 嘉子 散文になってしまった。
 初夢や友と付け合い歌仙巻く 千葉ちちろ 「付け合い」は無駄な表現。
 初夢に鵺行き交うてはや三日 大江 月子 空想的で難解。なお「鵺」は夏季なり。
 初夢は猪突猛進光齢者 平岡 佳子 観念的で難解。「高齢者」の誤記か。
 子と孫にパソコン教ゆる初寝覚 清水さち子 報告に終わってしまった。
 初夢の色だけまぶたに旭射す 櫻木 とみ 「初夢の色」観念的なり。
 初夢に白き扉は開かぬまま 椎名美知子 「白き扉」観念的なり。
 初夢の若かりし母セピア色 中村  緑 わかるが説明的なり。
 初夢の虚実の迫間母の声 市川美代子 「虚実の迫間」抽象的なり。
 初夢や徊限りなしの砂漠 竹内 林書 空想的に響きて難解。
 初夢の天馬となりて宙を駆け 梅田ひろし 観念的なり。
 良きことの多くありそな初夢かな 園田 靖子 わかるが説明的なり。
 初夢をつむぐ枕下の七福神 中村美智子 わかるが説明的なり。
 初夢によき句願ひてねまりけり 三島 菊枝 わかるが説明的なり。
 初夢やおぼろげながら気になりて 内藤 邦雄 わかるが説明的なり。
 初夢を水の都の闇に見る 高本 直子 「水の都」がつかみどころなし。
 散歩待つコロのはつゆめ如何ならむ 西野 由美 感動の焦点不明なり。
【薪 能】国家隆盛祈願の心。新春のあらたまった気分を忘れたくない。
◎一笛にふりむく鬼面薪能 梅田ひろし 「ふりむく」で詩となれり。
◎火の揺れは心のゆらぎ薪能 安居 正浩 「心のゆらぎ」で詩となれり。
◎薪能世阿弥きているやうな闇 根本 文子 「闇」で詩となれり。
◎篝爆ぜ修羅となりけり薪能 三島 菊枝 「篝爆ぜ」で詩となれり。
○薪能二本の角の迫り来る 谷  美雪 鑑賞にやや知識を要す。
○おひねりも飛んで佳境に薪能  吉田 久子 鑑賞にやや知識を要す。
○「土蜘蛛」の糸ゆらめくや薪能 水野千寿子 鑑賞にやや知識を要す。
○薪能鼓の響き闇を裂く 千葉ちちろ 平明なれど景色よし。
○笛の音に炎揺らぎて薪能 金井  巧 平明なれど景色よし。
○薪能しじまを破る鼓かな 尾崎喜美子 平明なれど景色よし。
○白足袋の白際だちて薪能 市川美代子 平明なれど景色よし。
○笛の音に鬼女出て来たり薪能 園田 靖子 平明なれど景色よし。
○薪能爪先ばかり見とれてる 中村  緑 平明なれど景色よし。
○薪能はるばるときて待ちてをり 清水さち子 平明なれど景色よし。
○薪能脇正面に照りし顔 市川 浩司 平明なれど景色よし。
○はぜる火の闇に一笛薪能 松村  實 平明なれど景色よし。
○明と暗火の粉越見る薪能 尾崎 弘三 「明暗の」。平明なれど景色よし。
○白き面ほんのり染めて薪能 三木 喜美 「ほんのり」は要らぬ気がする。
○ポケットに八一の歌集薪能 堀口 希望 薪能の磁場に八一歌集がありや否や。
 若き日に若宮で見し薪能 平岡 佳子 若宮能とも言うゆえ近し。
 般若面我に重なる薪能 織田 嘉子 薪能でなくてもよいね。
 月明り万葉の丘の薪能 天野喜代子 「万葉の丘(奈良)」では説明。
 共白髪無事に笑顔で薪能 礒部 和子 「共白髪」は見る側、それとも演じる側か。
 面地謡連囃子焔薪能 大江 月子 海紅降参す。作者の解説を待つ。
 薪能幼き記憶おごそかに 内藤 邦雄 「おごそかに」は要らぬ気がする。
 大鼓余韻残して薪能 小出 富子 発見や驚きが伝わらない。
 薪能浮びくる面に魅入られる 櫻木 とみ 発見や驚きが伝わらない。
 薪能照らされ動く面の顔 岡田 光生 発見や驚きが伝わらない。
 深闇の火の粉も一役薪能 濱田 惟代 説明に終わった。
 薪能炎にゆらり面の内 椎名美知子 「面の内」の効果がわからない。
 大野原空そまりけり薪能かな 竹内 林書 報告に終わった。
 薪能翁の面にみぞれ降る 中村美智子 翁の面ばかりではなかろう。
 薪能演者狂焔氷川の黙 米田 主美 報告に終わった。
 薪能君といて頬照らさるる 西野 由美 恋の句になってしまった。
海紅切絵図
硝煙の匂ふ猟師と目が合ひぬ 海 紅
初夢や指輪に縁のうすきころ
猿沢に悲話を訪ねて芝能に
 
「鳩の会」トップへ戻る