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鳩ノ会会報24 /2006 ・02 ・10 /東洋大学俳文学研究会
兼題 若菜・雪蓑・節分
明日よりは春菜摘まむと標めし野に昨日も今日も雪は降りつつ 
(赤人・万葉・巻八)
【若 菜】正月の粥に入れる春の七草の総称。七種と決まったものでなく、主に薺や芹。
◎親鳥の子を促せる若菜かな 根本 文子 白鳥の親子の由なれど、ことわらずとも良し。
◎畦道を踏み外しては若菜摘む 千葉  透 巧むところなき描写良し。
◎青空の野に夫誘ひ若菜摘む 市川美代子 「青空」では手放し状態ゆえ再考か。
○言の葉を摘むごと狭庭に若菜摘む 大江 尚子 しゃれているが、「狭庭」である必要なし。
○あの頃は子供の仕事若菜つみ 水野千寿子 素直。懐旧の心を含むせいか。
○若菜摘む妻は少女に戻りけり 金井  巧 「戻りけり」とまで言えば嘘なり。
○野に出でん声掛けあうて若菜つみ 尾崎喜美子 「野に出でん」は無駄。声掛け合う様子を…。
○初若菜ごめんねと摘む小さき庭 椎名美知子 「小さき」が無駄なり。
○手の先に息吹きかけて若菜つむ 尾崎 弘三  「指先に」。
○庭先に若菜見付ける明るき日 堀 眞智子 「明るき日」誤解される余地あり。
  新しき命を賞でつ若菜摘む 浜田 惟代 「新しき命」誤解される余地あり。
  病み上がり作つていただく若菜粥 岡田 光生 「いただく」誤解される余地あり。
  木曽路とて若菜集読み若菜摘む 礒部 和子 島崎藤村に趣向を求めすぎて失敗なり。
  何歳やら薺つみにし母の里 清水さち子 描写を。何歳であったかはこだわることなし。
  アスファルト道若菜の横に雪だるま 中村美智子 まず「若菜」を喜ぶ心を養ってから描こう。
  義理を欠くことも世の術若菜摘む 菴谷 早苗 「若菜摘む」が難解。
  やはらかな若菜目にして力みなし 織田 嘉子 「力みなし」が難解。
  清貧の家長の伍して初若菜 伊藤 無迅 「伍して」とする意図難解なり。
  台所の窓辺で育む私の若菜 五十嵐信代 「私の」が無駄なり。
  若菜汁朱塗り器に浮かびきて 三木 喜美 「朱塗り」の語が生きていない。
  七草の古歌吟じつつ粥配る 谷  美雪 なぜ古歌を吟じるのか。
  武蔵野に若菜摘む子の細き指 山本 栄子 武蔵野に残る若菜を摘む、とだけ言えばよい。
  母の里堀に手延ばし若菜摘む 小出 富子 堀に伸ばす手が若菜に届いたとだけ言えばよい。
  一人居も若菜も摘みて碗一つ 竹内 林書 一人住みに若菜摘む贅沢があると詠めばよい。
  枯草の根本に冴ゆる若菜つむ 天野喜代子 枯草を分ければ若菜があったとだけ言えばよい。
【雪 蓑】藁で作った裾の広い合羽。名は雪の日に使用したゆえ。衣服豊かな時代になって廃れた。
◎雪蓑の暖かさうに別れけり 山本 栄子 素直にして真情の見ゆる。
◎雪蓑の乾くひまなく降りつづく 水野千寿子 「乾くひまなく」に情あり。
◎雪蓑の背ナの丸さを懐かしむ 市川美代子 雪蓑を知っている人の句なり。
◎雪蓑の守る花芽や開き初む 尾崎喜美子 「守る」がいいね。
◎雪蓑と一つになりしか花牡丹 尾崎 弘三 「か」はいらないね。
◎雪蓑や母生涯を土に生く 菴谷 早苗 やや情が濃いけれど…。
◎雪蓑に閉ぢこもりたき我がゐる 織田 嘉子 やや情が濃いけれど…。
○雪蓑に紅増し咲くや花牡丹 礒部 和子 中七の日本語がすっきりしない。
○雪蓑の姉妹寄添ひバスを待つ 金井  巧 中七の日本語がすっきりしない。
○雪蓑やお地蔵さまも欲しげなり 三木 喜美 古風なれど、情の在処をつかまえたる。
○雪蓑に落人のたつき偲びけり 浜田 惟代 古風なれど、情の在処をつかまえたる。
○雪蓑や壁に貼りつく民俗店 千葉  透 壁に掛かっていると、普通に言えばよい。
○雪蓑の雪はらふ手のほのあかき 椎名美知子 「ほのあかく」とせば焦点が定まる。
○雪蓑をかぶつて並ぶ地蔵さま 天野喜代子 素直すぎるが、姿勢はこれでよし。
  今時は帽子被つて雪蓑に 岡田 光生 「雪蓑に」が難解。
  雪蓑を着て日を招く平家塚 根本 文子 「日を招く」が難解。
  雪蓑や改札口で旅さそふ 小出 富子 「改札口で」が難解。
  雪蓑や命に生きておはぐれ子 竹内 林書 「命に生きて」「おはぐれ子」難解。
  樺皮とり雪蓑肩に祖父にんまり 谷  美雪 視点が雪蓑から逸れている。
  雪蓑のお地蔵様に夕の鐘 清水さち子 「夕の鐘」が生きていない。
  雪蓑の人目ばかりや光りあり 江 尚子 中七・座五が思い描けず。
  雪蓑や三三五五の葬の列 伊藤 無迅 情景の中に救いが欲しい。
  蓑かぶり面ふせわたる雪の川 五十嵐信代 報告に終わっている。
  からつ風雪蓑よりも風邪囲い 中村美智子 「からつ風」「雪蓑」「風邪」のすべて季感。
【節 分】立春の前日に厄を払う越年の習俗で、豆打ち・鬼やらいとも。柊や鰯の頭を插し、枕の下に敷く宝船等に同じ心。本来は節(時節)の変わり目の意で年に四回。
◎植木にも節分の水ひとわたり 水野千寿子 「節分の水」とは優し。「ひとわたり」も繊細。
◎節分の鬼が逃げ出す幼稚園 市川美代子 人の世の滑稽と人情とがここにあり。
◎鬼やらひまたもや姿見失ふ 浜田 惟代 人の世の滑稽と人情とがここにあり。
○節分や決意あらたに万歩計 小出 富子 今度は挫折しないように頼みます。
○節分や枡に溢れる福の神 五十嵐信代 古風なれども情あり。
○節分会残雪寺を狭くする 礒部 和子 「狭くする」は穿ち過ぎか。
○豆まきの終りて明日子は嫁ぐ 清水さち子 「終えて明日は嫁ぎゆく」。
○節分の明日より日差し変はるなる 大江 尚子 描写不足。下五落ち着かず、海紅の転記違いか。
○節分の声遠くにて父偲び 三木 喜美 「声を遠くに父偲ぶ」ではいかが。
○節分や煎餅返す寺通り 菴谷 早苗 大寺の豆まき。古風に見えて、描写は的確。
○節分の声に起きろよ庭の木樹 尾崎 弘三 「木々」でよい。「起きろよ」の口語面白し。
○節分や金運太巻とやらも食ぶ 堀 眞智子 縁起物の巻き寿司であろうか。
 節分や小さき声で鬼は外 山本 栄子 織田さんの句を参照するとよくわかる。
 節分のかけ声少し老夫婦 織田 嘉子 山本さんの句を参照するとよくわかる。
 節分や湯気あふれゐし厨口 伊藤 無迅 中七以下と節分とが映り合わず。
 節分やこの世に神も鬼なかれ 竹内 林書 「節分やこの世に神も鬼もなし」。
 節分や購ひし豆撒きもせず 金井  巧 これでは「なぜ蒔かないの」と問われてしまう。
 お隣の父子の声や鬼やらひ 尾崎喜美子 お隣と特定した効果が出ていない。
 古き社に追儺の知らせ白き紙 椎名美知子 「古き社」を捨て、「白き紙」の位置形状を出す。
 風雅に遠き我屈折に豆を打つ 根本 文子 「風雅」「屈折」等、観念的な五を捨てよ。
 節分や押し合ひ圧し合ひ群れ動く 千葉  透 これではそのまんまゆえ、描写と言わず。
 節分詣古豆にぎり壬生寺に 谷  美雪 なぜ「古豆」、なぜ「壬生寺」なのか。
 夕闇にピーンと流るる節分会 天野喜代子 なにが「流るる」のか。
 節分の後に和らぐ君の声 岡田 光生 なぜ節分の後なのか。
散りし豆ペットがしつぽで掃除する 中村美智子 「散りし豆」難解。
海紅切絵図
両膝をついて若菜を摘んでをり 海 紅
顛末を聞く雪蓑を着たるまま
節分も近しと見舞状に書く
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