白山句会会報 No.25   ホーム

白山句会 白山句会報第25号
□ 日時   平成28年6月11(土)、14時30分〜16時45分
□ 句会場  江東区亀戸文化センター 第2研修室(5階)

今回の白山句会は、会員の月岡さん、大石さん、山崎さんにお世話になり亀戸文化センターで開催し、盛況21人の参加がありました。会場はJR亀戸駅から歩いて数分の申し分ない場所でした。亀戸は江戸時代からの由緒ある街で、会場付近には亀戸天神を始め亀戸梅屋敷や伊藤佐千夫の墓がある普門院など見所が多く、皆さんは思い思いに吟行と句作を楽しまれたようです。
次回は10月を予定しています。日時は未定ですが、一か月前には案内予定です。


〈 俳 話 少 々 〉

 NHKテレビで大橋鎭子をモデルとした連続ドラマ『とと姉ちゃん』が放映されている。「とと姉ちゃん」は死んだ父(トト)の遺言で、その代わりとなって生きる姉という意味。不平不満分子に言わせれば、家庭の犠牲を強いられる不運な人生とも見えようが、人はそんな境遇からも知足に至る。
 このドラマを観ていてKのことを思い出した。彼が中学一年になって、初めて持たされた学生鞄は定時制高等学校に通うことになった姉との共用で、男物とも女物とも見えぬまがい物の皮革だった。五人の子どもと年季奉公の職人見習いを数人抱えた家業は日ごとに傾き、両親は長女を中卒で働きに出すしかなかった。姉がどんな気持ちでそれに応じたかはわからないが、Kは十七時に仕事を終える姉の通学に間に合うように帰宅し、鞄をカラにして姉に渡す中学生時代を送った。
 その数年後に小さな町工場は倒産。高卒後三年間のサラリーマンさえ勤まらずに東京に出たKに対して、姉はその後も事務員として長く倒産後の暮らしを支えた。そして、まるで物語のように王子様があらわれて結婚し、子や孫に囲まれたおだやかな暮らしをしている。
 『とと姉ちゃん』を観ていて、あの時代の多くはあの通りだったと思うけれど、あれ以下であったとも思う。それは現代の若者たちが自分の生涯を振りかえる時代が来ても、ほとんど変わりないであろう。そこでしみじみ思うのは、つまるところ、掛け替えのない自分を受け入れた人が果報者であるということ。そうした心のありようを自分のものにするのに、俳句という文化も大いに役立っていると思うことである。

 たびたび申し上げて恐縮だが、芭蕉は〈外界が美しく見えないときの自分は野蛮人と同じ、内界に美しい心が育たないときの自分は鳥獣と同じ〉(笈の小文・造化論)と言っている。
また〈花と向き合うときに、その花を信頼しなければ、花はきっと恨みに思う。その信頼が詩情を生む。花を信頼して何かを尋ねてみるとよい、必ず答えてくれるから。表現はそれに素直に従えばよい〉(嵐雪・或時集序)とも言い残している。

 多くの人が、それぞれの方法で自分の生涯を肯定してゆくことを思えば、俳句だけが有効と気負うつもりはないが、芭蕉会議はこのような心を通わせる、思いやり深い人々の集まりであることを常に念じている。(海紅先生談)


〈 句 会 報 告 〉
* 一部の作品については、作者の意図をそれない範囲で原句表現の一部を改めたものがあります。
* 海紅選の句は互選点数に含まれておりません。

☆ 海紅選 ☆

スーパーの軒をつばくろ定宿に ムーミン
句座近き天神橋の風涼し 松江
古寺の大樹に遊ぶ四十雀 右稀
人声に泳ぎ寄り来る子亀かな 梨花
紫陽花や同じ顔して違ふ色 しのぶこ
青鷺の自問自答の池面かな つゆ草
梅雨晴や賽銭箱の音高き つゆ草

☆ 互選結果 ☆

6 大川の曳舟軌跡夏の雲 由美
6 梅雨晴れや賽銭箱の音高き つゆ草
5 亀たちの茅の輪くぐりや布袋草 瑛子
4 しんとして夏の日の中家族葬 美知子
3 人声に泳ぎ寄り来る子亀かな 梨花
3 梅若葉子規の願ひの鷽を買ふ 梨花
3 一文字の浴衣ゆきかふ国技館 山茶花
3 立葵遠き目をした鳥休む しのぶ子
3 青鷺に万緑の風押し寄せる 梨花
3 世の隅に生きて昼酒夏帽子 和子
3 ぬめるものあまた地を這う五月闇 月子
3 片陰を伝ひて歩む老夫婦 ひろかず
2 スーパーの軒をつばくろ定宿に ムーミン
2 十薬やこの世の塵を寄せ付けず ひろし
2 一歩添ひ二歩退きて蟻の道 つゆ草
2 青鷺の自問自答の池面かな つゆ草
2 梅雨晴れや花の腕輪に四つ葉編む 美雪
2 スカートの双子の下校桐の花 宏美
2 語りたし我家の枇杷とありし日々 静枝
2 塔一つ橋二つある夏景色 無迅
2 隣人の樟脳の香よ梅雨晴間 無迅
2 風渡る木下陰に芭蕉句碑 喜美子
2 夏燕蜀山人の額の門 由美
2 噴水やスカイツリーのそそり立つ 由美
2 古寺の大樹に遊ぶ四十雀 右稀
2 紫陽花や江戸の切子にうつりけり
2 物干しのノースリーブに夏踊る 美知子
2 表裏無かりき暮らしや夏大根 宏美
2 南天の花屑つもる蜘蛛囲かな 無迅
2 涙拭きしハンカチの如あやめ枯る 海紅
2 橋の先黴も愛しい芭蕉句碑 窓花
1 業平忌名のうせし駅人多し ひろかず
1 つつがなき古稀を迎へん濃紫陽花 海紅
1 蟻の列じやまして遊ぶ庭そうじ 静枝
1 アジサイのコバルト色が躍り出す ムーミン
1 句座近き天神橋の風涼し 松江
1 母を連れ手に夏帽子祈る鈴 智子
1 六月や息はも今朝のうす湿り
1 絡み合ふ片恋かくす藤の房 こま女
1 走り梅雨天満宮の亀首すくめ こま女
1 古希もなほ昆虫少年火取虫 静枝
1 十薬は今盛りなり自己主張 喜美子
1 木下闇左千夫の墓に会ひにけり ふみ子
1 紫陽花や同じ顔して違ふ色 しのぶこ
1 人誘ふ薔薇の家には主人なし しのぶこ
1 早苗田の一筋といふ心かな 海紅
1 梔子の苔三百香を含む 和子

☆ 参加者 ☆ <順不同・敬称略>
谷地海紅、伊藤無迅、月岡糀、大石しのぶこ、山崎右稀、根本梨花、相澤ひろかず、
鈴木松江、尾崎喜美子、三木つゆ草、平塚ふみ子、谷美雪、大江月子、水野ムーミン
村上智子、尾見谷静枝、西野由美、谷地元瑛子、小出山茶花、椎名美知子、眞杉窓花
(以上、21名)
☆欠席投句者☆
梅田ひろし、磯部和子、柴田憲、中村こま女、むらさき、丹野宏美 (以上、6名)

<以上、眞杉窓花記>



☆海紅付記☆
 以下の句は〈とてもよい景色だなあ〉と思うのですが、言い過ぎているので焦点がぼけてしまい、それで共鳴を得にくいものになっています。言い過ぎと思うところを(括弧)でくくってみましたので、それを捨てて再構築し、海紅選の七句との違いを理解してください。芭蕉は「言ひおほせて何かある」(去来抄・先師評)と言っています。意訳すれば〈言い尽くして、読者が混乱してしまうようではダメだ〉というのです。参考にしていただければ幸いです。

世の隅に生きて(昼酒)夏帽子
梔子の莟三百(香を含む)
片陰を伝ひて歩む(老夫婦)
木下闇左千夫の墓に(会ひにけり)
裏表(無かり暮らしや)夏大根
走り梅雨(天満宮の)亀首すくめ
業平忌(名のうせし駅)人多し
梅雨晴間後朝の文LINE(待つ)
物干しのノースリーブに(夏踊る)
(母を連れ)(手に夏帽子)(祈る鈴)
下闇に木魚聴く人(光明寺)
噴水やスカイツリーの(そそり立つ)

< 了 >



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