日時 平成22年2月27日(土)〜 29日(月)
場所 銀山温泉・尾花沢市内
―銀山温泉吟行一日目―
芭蕉会議として初めての吟行ツアーを実施しました。場所は山形の銀山温泉。16名参加。東京、大宮、福島それに前日出発組もそれぞれ大石田駅に集合。到着後、雪の温泉街を散策しました。深く積もった雪に洗心峡などには行けませんでしたが、白銀の滝や疎水坑跡などを見学。その後3句出句の句会を行いました。入浴の後は美味しい料理や酒に、安保先生やかずみさんの歌、旅館の従業員の花笠音頭なども加わり楽しい宴会になりました。外に出て、幻想的な夜景を楽しんだ後は、部屋で地酒を飲みながら雑談、寝るのを忘れるほど。密度の濃い一日目は終りました。
|
― 谷地海紅選 ―
◎残雪や根をはるごとく山を噛み |
浩司 |
|
|
銀山の鏝絵に雪解雫かな |
文子 |
|
|
古の疎水の跡や雪解道 |
敬子 |
|
|
たぎりたつ瀬音の中に春来たる |
博史 |
|
|
影も雪も意志ある如く残りけり |
瑛子 |
|
|
農道の黒みづみづし雪解原 |
希望 |
|
|
春灯に飴色の床やはらかし |
千寿子 |
|
|
雪しづく鏝絵を伝ふ湯治宿 |
無迅 |
|
|
春の川宿門ごとに橋をもち |
月子 |
|
|
雪滴浴びて湯治の客となる |
無迅 |
|
|
ガス燈にポエム点りて雪解宿 |
つゆ草 |
|
|
屋根の雪やはらかに積む湯治宿 |
文子 |
|
|
大正の宿に寝みて二月尽く |
信代 |
|
|
雪しづり聞く湯の宿の二階より |
正浩 |
|
|
何置けば一番似合ふ雪の原 |
正浩 |
|
|
湯の街に春を告げくる大瀑布 |
敬子 |
|
|
いくたびも雪解川越へ出羽の宿 |
無迅 |
|
|
最上川となる一筋の雪解水 |
希望 |
|
|
東京を出てきし靴が根雪踏む |
正浩 |
|
|
|
― 互選結果 ―
銀山の鏝絵に雪解雫かな |
文子 |
4(内特選1) |
積もる雪三つ目の角を間違へる |
信代 |
2(内特選1) |
古の疎水の跡や雪解道 |
敬子 |
1 |
|
たぎりたつ瀬音の中に春来たる |
博史 |
1 |
|
影も雪も意志ある如く残りけり |
瑛子 |
4(内特選1) |
七十の夢や残雪光る嶺 |
希望 |
1 |
|
雪残る中の小さき丸が好き |
海紅 |
3(内特選1) |
鳥海の頂よりの雪解水 |
文子 |
1(内特選1) |
農道の黒みづみづし雪解原 |
希望 |
1 |
|
芹の根を雪解の水で洗ひたし |
博史 |
2 |
|
早春のそば屋でそばを肉弛む |
いろは |
1 |
|
雪解水大正ロマンつつみけり |
浩司 |
1 |
|
スカーフに春忍ばせて旅ゆけり |
つゆ草 |
1 |
|
春灯に飴色の床やはらかし |
千寿子 |
1(内特選1) |
部屋ごとにささめき分けて春の宿 |
月子 |
4(内特選2) |
残雪や根をはるごとく山を噛み |
浩司 |
4 |
|
みちのくに関西弁あり山笑ふ |
千寿子 |
1 |
|
銀のむすぶ湯うれし春の宿 |
月子 |
1 |
|
雪しづく鏝絵を伝ふ湯治宿 |
無迅 |
1 |
|
銀山や地鳴り笹鳴り雪解水 |
瑛子 |
1 |
|
春の川宿門ごとに橋をもち |
月子 |
2 |
|
鉱山の悲話足湯にて雪雫 |
つゆ草 |
3 |
|
山肌に根雪地図となり動かざる |
かずみ |
1 |
|
なごり雪地層のやうに現れる |
美智子 |
1 |
|
飴色の床早春の客と鳴り |
千寿子 |
4 |
|
雪滴浴びて湯治の客となる |
無迅 |
1 |
|
雪消音幻の酒あきらめて |
かずみ |
1 |
|
ガス燈にポエム点りて雪解宿 |
つゆ草 |
2 |
|
冬の果て旅路の果ての銀鉱洞 |
博史 |
4 |
|
屋根の雪やはらかに積む湯治宿 |
文子 |
3(内特選1) |
雪解川二つの滝に分かれけり |
海紅 |
2(内特選1) |
頬なでる風まだ寒し和楽足湯 |
敬子 |
1 |
|
大正の宿に寝みて二月尽く |
信代 |
3 |
|
雪しづり聞く湯の宿の二階より |
正浩 |
5(内特選1) |
何置けば一番似合ふ雪の原 |
正浩 |
2(内特選1) |
湯の街に春を告げくる大瀑布 |
敬子 |
1 |
|
雪のせて空沈みけり夜の街 |
信代 |
1 |
|
交叉する土が畦道雪残る |
海紅 |
1 |
|
鉄鉢にあふるるばかり雪雫 |
いろは |
7(内特選1) |
いくたびも雪解川越へ出羽の宿 |
無迅 |
5(内特選1) |
最上川となる一筋の雪解水 |
希望 |
2(内特選1) |
東京を出てきし靴が根雪踏む |
正浩 |
2 |
|
附記 会報作成にあたり、歴史的仮名遣いに統一いたしました。(海紅)
参加者
谷地海紅 安保博史 越後敬子 三木つゆ草 米田かずみ 大江月子 水野千寿子 吉田いろは 根本文子 五十嵐信代 中村美智子 谷地元瑛子 伊藤無迅 安居正浩 江田浩司 堀口希望
(安 居 記) |
|
大石田鍛錬句会報告
―銀山温泉吟行二日目―
二日目は昨日のような快晴とはゆかず曇天である。宿を十時前に出発、尾花沢市に向かう。芭蕉ゆかりの養泉寺および「芭蕉・清風歴史資料館」を見学する。見学後タクシー(9人乗り)で雪解水渦巻く最上川を渡り、大石田駅に向かう。ここで帰京組と居残り組が別れることになる。駅構内の蕎麦屋で、帰京する安保・越後両先生達と、名残りの昼食をとる。居残り組9名は、チェックインには未だ相当早いが、駅前の最上屋旅館に半ば強引に上がりこむ。部屋割りも、そこそこに和室に集まり、本日第一回目の句会が始まる。句材は午前中の資料館見学と、昨日の銀山温泉の印象である。
□ 二日目第一回句会 〈 出句2句、5句選うち特選一句 〉 |
― 谷地海紅選 ―
◎雛の日を間近にしたる軒雫 |
正浩 |
|
|
見送りて遠くの山の雪曇り |
いろは |
|
|
湯煙の町ゆく赤きショールかな |
文子 |
|
|
蓋とりて春色ほのか朝の膳 |
千寿子 |
|
|
雪虫や芭蕉ゆかりの寺たづね |
浩司 |
|
|
|
― 互選結果 ― 〈特選句は2点〉
蓋とりて春色ほのか朝の膳 |
千寿子 |
9(3) |
|
雛の日を間近にしたる軒雫 |
正浩 |
7(2) |
|
湯煙の町ゆく赤きショールかな |
文子 |
6(1) |
|
清風の書やふはふはと風花す |
浩司 |
5(1) |
|
雪解川男ざかりの議論盛る |
千寿子 |
5(1) |
|
雪食みて逆巻きてゆく最上川 |
文子 |
4 |
|
橋桁にしづもりねまる雪解光 |
無迅 |
3 |
|
見送りて遠くの山の雪曇り |
いろは |
3 |
|
雪虫や芭蕉ゆかりの寺たづね |
浩司 |
3 |
|
清風の筆筒戸棚春の闇 |
無迅 |
2 |
|
月の宿滝の瀬音を終もすがら |
いろは |
2(1) |
|
襟足のほんのり酔ひて春の酒 |
つゆ草 |
2 |
|
雪の間に間に草萌ゆる最上川 |
かずみ |
1 |
|
矍鑠と生きてる姿雪解宿 |
つゆ草 |
1 |
|
雨女ゐてみちのくの春雨に |
海紅 |
1 |
|
|
句会が終わり、夕食前に宿の老女将に紹介された温泉「あったまりランド深堀」で一風呂浴びようということになった。再び9人乗りタクシーのお世話になる。温泉の下足棚に並んだゴム長が雪国らしくていい。夕食は質素であるが、若女将の工夫うれしい地方色豊かな食事であった。美味な二種類の地酒にしたたか酔った脳細胞は、早や最上川のようにどす黒く雪濁り、ポアロのねずみ色の脳細胞のような働きは、とても期待できない。それでも句会は始まった。 |
|
□ 二日目第二回句会 〈 出句2句、5句選うち特選一句 〉 |
― 谷地海紅選 ―
◎春愁やブルーグラスに透ける酒 |
正浩 |
|
|
駅舎より除雪を高く積み上げて |
文子 |
|
|
雪原の一筋の道風呂帰り |
千寿子 |
|
|
五感みな満たされ今宵雪見酒 |
つゆ草 |
|
|
湯浴みして木の芽ふくらむ夕明かり |
かずみ |
|
|
|
― 互選結果 ― 〈特選句は2点〉
春愁やブルーグラスに透ける酒 |
正浩 |
9(3) |
|
女将出て大女将出て春の月 |
海紅 |
6(2) |
|
春の雪リルケの詩句のうすあかり |
浩司 |
5 |
|
暗闇にうごめいてゐる残り雪 |
正浩 |
5(1) |
|
湯浴みして木の芽ふくらむ夕明かり |
かずみ |
5(1) |
|
雪片を仰ぐ楽しみ母を恋ふ |
海紅 |
4(1) |
|
黒凍(じ)みの道果てもなき雪の原 |
文子 |
4 |
|
水雪の渡しの跡や最上川 |
いろは |
3 |
|
世に出よと背伸びし頃の春の夢 |
千寿子 |
3 |
|
みだれ髪湯にくつろいで名残り雪 |
つゆ草 |
2 |
|
雪原の一筋の道風呂帰り |
千寿子 |
2 |
|
ものの芽や茂吉の逍遥バケツ下げ |
無迅 |
2(1) |
|
駅舎より除雪を高く積み上げて |
文子 |
1 |
|
うす闇の果てに残りし鴨の湖(うみ) |
浩司 |
1 |
|
|
句会が果てても、誰も部屋に戻る人はいない。話は俳句のこと、芭蕉のこと、芭蕉会議のこと・・・・
三日目も曇天である、しかし雪国はこれが普通なのだ。初日の快晴は実に珍しく、この冬一番の上天気であったと若女将が言う。天気がわれわれ一行を待ち構えていたのであろう。待ち構えていたのは天気だけでなかった。それは後述する、おてもと句会後に起こった。
朝食後先生の発案で、茂吉ゆかりの寺「乗船寺」を見学することになった。四度目の9人乗りタクシーで乗船寺へ向かう。寺門を入ると右手にこの寺の名前の起こりである釈迦涅槃像がある。またこの寺に茂吉の墓と歌碑がある、しかし雪で近寄れない。さて帰ろうかと思っていると、根本さんがインターフォンでなにやらお寺さんと話し出した。堂内にある千手観音拝観の交渉である。品の良い女将さんが出てきて、堂内に招き入れ寺の由来や土地の風習などを話してくれた。宿に帰り一階の喫茶室でコーヒーを飲む。
そして、おてもと句会が始まった。 |
|
□ 三日目第一回句会 〈 おてもと句会形式 〉 |
雪明かり頼りに寝釈迦覗きけり |
海紅 |
8 |
|
雪中の寺のをんなの国訛り |
千寿子 |
6 |
|
清流に浮島のごと雪残る |
文子 |
6 |
|
亡き人の息の口あけ雪囲ひ |
文子 |
5 |
|
物言はぬ茂吉の墓や冴へ返る |
いろは |
5 |
|
うす闇に雪明りさし涅槃像 |
浩司 |
5 |
|
雪の嵩とび越えてゆけ茂吉歌碑 |
いろは |
4 |
|
落剥のせんじゆくわんおん春の闇 |
無迅 |
4 |
|
方言も心も優し雪解寺 |
つゆ草 |
3 |
|
陸奥泊り重ね弥生の空となり |
千寿子 |
3 |
|
雪厚く思ひも熱く涅槃像 |
かずみ |
2 |
|
頬の手の頬にやさしき寝釈迦かな |
正浩 |
1 |
|
川水の墓茂吉の墓や雪明り |
浩司 |
1 |
|
|
|
句会が終わり、引き上げようとしていると、店の客で乳呑み児を抱いた若い女性が、千寿子さんに話しかけてきた。聞くところによると女性に同行していた老女が、鈴木清風の子孫だという。全く予期せぬ事態に皆さん一瞬呆然とする。そういえば短冊を読み上げているとき、終始感じていた視線はその女性のものであった。早速その老女を囲み記念写真を撮る。これも俳句が結ぶひとつの縁か、引き合わせたのは、あの釈迦涅槃像か、千手観音か・・・。
俳句の神(仏?)は、旅の終わりに素晴らしいハプニングを用意していてくれた。
|
参加者
谷地海紅、江田浩司、安居正浩、根本文子、吉田いろは、水野千寿子、米田かずみ、三木つゆ草、伊藤無迅
(無迅記) |
|